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非営利・非政府組織
Non-Profit Organization (NPO) /
Non-Government Organization (NGO)

 
1844 英 ランカシャー地方ロッチデイルでロッヂデール公正先駆者組合発足。角瀬・川口 (1999, p.1)
1926 米 Co-operative Marketing Act制定。小島 (1958, p.87)
1998 日 特定非営利活動促進法(NPO法)施行
2003 日 NPO法改正
2005 日 全国で20,350団体
1947 日 11月国民たすけあい運動(共同募金制度 初年度5億9000万円募金実績)/私立学校法(学校法人)
1947 日 (昭和22年)農業協同組合法制定。
1948 日 (昭和23年)消費生活協同組合法、水産業協同組合法制定。
1949 日 医療法(医療法人)
1949 日 (昭和24年)中小企業等協同組合法施行。
1951 日 社会福祉事業法制定/宗教法人法(宗教法人)/社会福祉事業法(社会福祉法人)
1965 日 大阪ボランティア協会設立
1970 日 日本国際交流センター設置
1972 日 公益法人監督事務連絡協議会「公益法人設立許可審査基準等に関する申し合わせ」/特殊法人国際交流基金設置
1973 米 ファイラー委員会(ブルーリボン委員会)。民間非営利事業と公的ニーズに関するブルーリボン委員会。ジョン・D.ロックフェラー3世によって設置され、企業、政府、非営利組織の代表からなる会議。(Salamon,1995=2007, p.214)
1985 日 厚生省シルバーサービス振興室設置
1989 日 高齢者保健福祉推進十か年戦略「ゴールドプラン」策定
1990 日 日経連 1パーセントクラブ設立
1995 米 NPOへの税免除の法制化
1995 日 1月阪神淡路大震災/3月地下鉄サリン事件/5月新進党「ボランティア基本法」提出→廃案/11月「市民公益活動を行う団体に対する法人格の付与等に関する法律案」提出
1995 日 2.3「ボランティア問題に関する各省庁連絡会議」設置。NPOプロジェクトチーム(自社さ与党)、NPOパートナーズ(新進党)による法案作り(村山内閣)(辻元ほか[2000:34])
1996 日 特定非営利活動促進法(NPO法)国会提案。
1997   NGOネットワーク「地雷禁止国際キャンペーン」がノーベル平和賞を受賞する(辻元ほか[2000:17])
1998 日 特定非営利活動促進法(NPO法)3月可決/12月1日施行(早瀬 松原[2004:36])
1999 日 4月特定非営利活動法人の認証開始
2000 日 公的介護保険実施
2001 日 認定NPO制度開始。
2003 日 改正NPO法可決(早瀬 松原[2004:38])
2005 日 全国で20,350団体

 

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【文献】

■ A ■

◆跡田直澄・山内直人・雨宮孝悦・太田美緒・山田武 (1994) 「非営利セクターの経済分析」, 『季刊・社会保障研究』, 29(4)

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■ C ■

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◆本間正明 編 (1991) 『フィランソロピーの社会経済学』, 東洋経済新報社

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◆岸田眞代 (2005) 『NPOからみたCSR――協働のチャレンジ ケース・スタディU』 同文館出版

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◆守永誠治 (1989) 『非営利組織体会計の研究』, 慶応通信

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◆長坂寿久 (1991) 『企業フィランソロピーの時代』, 日本貿易振興会

◆名東孝二 (1994) 『ホスピタリティとフィランソロピ』, 税務経理協会

◆NIRA研究叢書 (1992) 『在米日本企業の企業市民性』, 総合研究開発機構

◆ノートン、M.(四本憲二 監訳) (1992) 『企業の社会貢献ハンドブック』, 新泉社

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◆大橋洋治 (2005) 「社会変革に挑むNPOには優れた経営者と志ある資金が必要である」 経済同友会 http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2005/050706a.html

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◆Rose-Ackerman, Suzan. (ed). (1986). The Economics of Nonprofit Institutions. New York: Oxford University Press.

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◆坂本文武 (2004) 『NPOの経営――資金調達から運営まで』 日本経済新聞社

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◆Salamon, M. Lester. (1995). Partners in Public Service. Md: The John Hopkins University Press. (= 2007 江上哲 監訳、大野哲明・森康博・上田健作・吉村純一 訳 『NPOと公共サービス――政府と民間のパートナーシップ』, ミネルヴァ書房

◆Salamon, M. Lester. (1997). Holding the center: America's Nonprofit Sector at a Crossroads. New York: the Nathan Cumming Foundation. (= 1999 山内直人 訳 『NPO最前線――岐路に立つアメリカ市民社会』, 岩波書店)

◆サラモン、R (1994) 「福祉国家の衰退と非営利団体の台頭」, 『中央公論』, 10.

◆佐藤慶幸 (2002) 『NPOと市民社会』有斐閣

◆塩澤修平・山内直人 編 (2000) 『NPO研究の課題と展望2000』 日本評論社

◆島田晴雄 編 (1993) 『開花するフィランソロピー――日本企業の真価を問う』, TBSブリタニカ

◆下川辺淳 監修 (2002) 『ボランタリー経済と企業』日本評論社

◆総合研究開発機構 (1988) 『フィランソロピーの役割』,

■ T ■

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◆丹下博文 (1994) 『社会貢献志向の潮流』, 同文館

◆田中弥生 (2004) 『「NPO」幻想と現実』 同友館

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◆立岩真也・成井正之 (1996) 「非政府+非営利組織=NPO、は何をするか」所収 千葉大学文学部社会学研究室[1996: 48-61]

◆鳥居昭夫・岸井大太郎 編 (2005) 『公共事業の規制改革と競争政策』法政大学出版局

◆塚本一郎・古川俊一・雨宮孝子 編 (2004) 『NPOと新しい社会デザイン』  同文館出版

◆辻元清美・早瀬昇・松原明 (2000) 『NPOはやわかりQ&A』 岩波書店 岩波ブックレット511

◆通商産業省関東通商産業局 (1991) 『地域貢献企業の時代』, 通商産業調査会

■ U ■

◆梅沢昌太郎 (1988) 『非営利・公共事業のマーケティング』, 白桃書房

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◆山田太門 (1994) 「寄付活動に基づく準公共財・サービス供給:民間非営利セクターの育成と利他主義」, 『日本経済政策学会年俸』, 42, 勁草書房

◆山内直人 (1997) 『ノンプロフィットエコノミー――NPOとフィランソロピーの経済学』 日本評論社

◆山内直人 (1999) 『NPO入門』 日本経済新聞社

◆山岡義典 編 (1998) 『NPO基礎講座2――市民活動の現在』 ぎょうせい

◆横山恵子 (2003) 『企業の社会戦略とNPO』 白桃書房

■ W ■

◆渡邊一雄 (1992) 『体験的フィランソロピー』, 創流出版 

◆Weisbrod, Burton A. (1977). The Voluntary Nonprofit Sector: An Economic Analysis. Lexington, Mass.: Lexington Books.

■ Z ■

◆財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団 編, 林泰義・小野啓子ほか (1997) 『NPO教書――創発する市民のビジネス革命』風土社

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●税制優遇

 一つは、認定NPO法人自体に対する優遇ではなく、認定NPO法人に寄付をした個人や社会に対する優遇です。認定を受けていないNPO法人に寄付をした場合、その寄付金は税金の計算をする場合には、手元に寄付金は利益とみなされて税金がかかってしまいます。これが認定NPO法人になると、一定の金額まで寄付金を利益から差し引くことができるようになります。…もう一つは、認定NPO法人自身に対する優遇です。NPO法人には、物やサービスを売って活動資金を作っている団体も少なくありません。そのような場合は、NPO法人といえども、その利益には会社と同じような税金がかかることになっています。しかし、認定NPO法人になると、その利益にかかる税金が一定条件のもとで軽減されます。(早瀬 松原[2004:57])

 連邦税法には、「第501条C-3」というカテゴリーがあり、米国では、このカテゴリーの認可を受けた団体をNPOとするのが一般です。この「第501条C-3」の許可を受けている団体は、全米で約90万団体あるとされています。この認可を受けると、まずその団体の本来業務は、すべて非課税となります。また、この団体に寄付した人は、その所得の50%まで寄付金を課税所得から控除できますし、企業ならば所得の10%まで損金に参入することができます(少し例外があります)。(早瀬 松原[2004:62-3])

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◆Salamon, M. Lester. (1997). HOLDING THE CENTER America's Nonprofit Sector at a Crossroads. (= 1999 山内直人 訳 『NPO最前線――岐路に立つアメリカ市民社会』, 岩波書店
エグゼクティヴ・サマリー
序章
第1章 非営利セクターの現在
第2章 非営利セクターの危機
第3章 明るい兆し
第4章 次なるステップ −復活への模索
終章
解説1 NPOとは何か −日本の現状から 山内直人
解説2 アメリカのNPOから何を学ぶか 山内直人
訳者あとがき
データで読むアメリカのNPO
アメリカのNPOを理解するための基礎用語

 事実、1980年代を通じて、民間寄付の成長は個人所得の成長に及ばなかった。実際には、民間寄付は、1980年代初めの政府支出を穴埋めするどころか、NPOの収入に占めるシェアが、1982年の15%から92年には11%に減少した。(p.3)

 (…)非営利セクターは、根深い信頼性の危機に直面している。これは、部分的には最近世間を騒がせた一連のスキャンダルによるものである。しかし同時に、このセクターの実際の運営と一般の人々のあいだで支配的な古風な19世紀的イメージとのギャップによる部分もある。(p.3)

 中央政府の官僚主義に対してアメリカ人が抱く反感、そして政府が関与する分野の多くに強力な非営利機関が存在するため、政府公的資金による健康、教育、ソーシャル・サービス分野におけるサービスの実施、提供を非営利機関に託す傾向が見られた。そのため、政府の成長は非営利団体の役割を制限したり排除するのではなく、むしろ拡大させることになった。その結果、非営利団体はあらゆる人的サービスの分野に大きな地歩を築き、さらに、政府関与の直接的な副産物として、その活動を拡大することができたのである。(p.226)


@組織の形態をとっており、
A政府組織の一部を構成せず、
B組織の理事に利潤を分配せず、
C自立的に運営されており、
D米国議会や週報をはじめと刷る地方法制によって、ある種の公共目的のために活動しているとみなされ、
E各種の税の一部または全部を免除されている非課税団体である。(p.14)

要するに、NPOは、
・満たされざる需要を満たす、
・イノベーション(技術革新)を育む、
・コミュニティの一部しか支持しない「集合財」を供給する、
・地域的な環境と必要性を考慮した包括的な手法をとる、
といったことによって重要なサービス機能を演じているのである。(p.19)

 建国当初からNPOと政府のあいだには、豊かで実り多い協力関係が存在していたのである。アメリカの国土における最初の非営利法人であるハーバード・カレッジは、1600年半ばのマサチューセッツ湾植民地州議会の法にもとづいて設立されたものだった。植民地政府は、カレッジを許可しただけではなく、400ポンドの基金を与え、さらに「カレッジ・コーン」と呼ばれる穀物税の税収を経営的な助成として提供したのである。(p.25)

 政府と非営利セクターの協力関係は、アメリカの歴史に深く根ざしたものであるが、飛躍的に拡大したのは、連邦政府が、貧困と抑圧、民間慈善寄付の伸び悩み、および政治環境の変化に対応するようになった1960年代と70年代のことである。(p.27)

この結果は、1986年税制改革法が、高額所得者の限界税率を引き下げ、彼らの手元により多くの金額を残すことを通じて、これら納税者が慈善活動への寄付を増やす方向に働くだろうと主張した論者の期待に反するものであった。現実に起こったことは、税率の下落にともない寄付の追加的な「費用」が増大すれば、寄付のインセンティヴが低下し、それにより寄付が減少するという、軽量モデルの示唆するところと整合的なものであると思われる。(p.39)

 民間からのチャリティが十分なものでない以上、結果として回避や料金を財源とする方向へ向かうNPOが増えていった。(p.48)

 (…)有効性の危機(crisis of effectiveness)が表面化してきている。NPOは、(非効率的な組織は市場から淘汰されるという)「マーケット・テスト」を受けないので、資源の利用が非効率的で、問題に対するアプローチが効率的でないという批判。(p.61)

 理事会は、アカウンタビリティを発揮すると考えられているかもしれないが、実際のところこれが期待されるほど効果的なコントロール装置では到底ないことは分かっている。組織が複雑になり、プロのスタッフが大きな責任を持つようになるにつれ、ボランティアで運営されている理事会は、どんなにがんばっても、効果的な管理をする能力が減退する。(p.66-7)

 (…)政府と親密な関係を持ち、政府補助の削減に応じて営利的活動に進出するという非営利セクターの現実と、純粋にボランティア・エネルギーによって、助けが必要な人々のために働く地域に根ざした団体という通俗的なイメージのあいだには大きなギャップが生まれた。(p.69)

解説1 NPOとはなにか −日本の現状から 山内直人

 政府がこれまで直接供給してきたサービスの多くは、だれかがそれを肩代わりしなければならない。政府が直接供給するサービスは、無個性・画一的なものになりがちであるが、小回りの効くNPOはもともと少量多品種生産に向いており、公共サービスに対する需要の多様化に対応させやすい。NPOは、政府よりも消費者のニーズに適合した質の高いサービスを、より効率的に(より安いコストで)提供できる可能性が高いのである。(p.108)

 (…)インターネットはこうした情報独占を打ち破り、NPOも国際会議などで外交官と対等以上の交渉力を持つようになった。また、NPO同士が情報ネットワークで結ばれることにより、NPOの分業化、専門化が促進される面もある(p.110)

 民法では、利益法人と公益法人は非対称に扱われていて、営利法人は、形式要件さえ満たせば簡単に法人になれるのに、公益法人については、規制を持つと認められるものだけ、主官庁の許可を得てはじめて法人になれるのである。(p.123)

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◆今田忠 1993 「企業フィランソロピーの現状と課題」 (林雄二郎・山岡義典 編著 『フィランソロピーと社会 −その日本的課題』所収 ダイヤモンド社 p.259-76)

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◆宝塚NPOセンター編 本間正明 上野千鶴子 著 (1998) 『NPOの可能性 新しい市民活動』 かもがわブックレット115 ISBN4-87699-396-3

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◆角瀬保雄 川口清史 編 1999 『非営利・協同組織の経営』ミネルヴァ書房

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◆山岡義典 編著 1998 『NPO基礎講座2 市民活動の現在』 ぎょうせい
第1章 市民活動の全体像と諸分野 −分野を越えた交流のために
第2章 地域福祉の創造のために ー高齢者対応の活動を中心に
第3章 ともに生きる”地球市民社会”の現実を目指して −国際協力に携わる市民組織(NGO) の活動
第4章 芸術文化と子供の心を育てる活動
第5章 環境重視社会への転換のために −自然環境保護活動を中心に
第6章 女性の人権をめぐる活動 −DV問題とシェルター活動を中心に
第7章 コミュニティの再生に向けて −まちづくり・住まいづくりの活動を中心に
第8章 課題

例えば、ある自治体では「すぐやる課」というのができました。これは、例えば家の前の道路に車に引かれた犬の屍骸があるので始末してくれと住民が役所に電話すると、すぐに職員が飛んできて始末するというようなサービスをやる部署です。当時は賛美されたのですが、よく考えれば住民が自ら始末すれば、行政費用はかからなくて済むのです。(p.217)

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◆辻元清美・早瀬昇・松原明 2000 『NPOはやわかり Q&A』, 岩波書店(岩波ブックレット511)

 NPOは、収益活動もできますが、その使途は使命実現に向けた活動にしか支出できない組織だともいえます。(p.4)

 @無給の役員が組織運家の中心となり(組織面のチェック)、A利益が出ても、それを構成員で配分せず、全額を次年度以降の事業資金に投資する(経理面のチェック)とされています。(p.5)

 米国でNPO制度の根幹をなしているのは、この連邦税の制度です。『連邦税法』には、「第501条C-3」というカテゴリーがあり、米国では、このカテゴリーの認可を受けた団体をNPOとするのが一般的です。この認可を受けると、まずその団体の本来の事業(目的に関係する事業)はすべて非課税となります。また、この認可を受けた団体に寄付した人は、その人の所得の50%まで寄付金を課税所得から控除できますし、企業ならば所得の10%まで損金に参入することができます。つまり、個人でも法人でもNPOに寄付をすれば税金が一定程度安くなるしくみがあるわけです。(p.54-55)

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◆柏木宏 (2004) 『NPOマネジメントハンドブック――組織と事業の戦略的発想と手法』, 明石書店

はじめに
第1章 NPO概論
1 NPOとはなにか?
2 非営利法人制度とNPOの組織構造
3 法人制度と税制優遇措置
4 NPOセクターの現状
第2章 NPOマネジメント概論
1 NPOマネジメントの歴史的背景
2 NPOマネジメントの特殊性
3 NPOマネジメントの領域
第3章 ボランティアマネジメント
1 NPOとボランティア
2 ボランティア・マネジメントのトータル・プロセス
第4章 理事会のマネジメント
1 理事会とは?
2 理事会の六つの役割
3 理事会と職員の関係
第5章 ファンドレイジング
1 ファンドレイジングとは?
2 ファンドレイジングの基礎
3 ファンドレイジングの実際
4 戦略的なファンドレイジング
第6章 プログラム・プランニングとNPOの予算
1 NPOの実体、プログラム
2 プログラム・プランニングのプロセス
3 NPOと予算
第7章 戦略計画
1 戦略計画の概要
2 戦略計画のプロセス
第8章 リスクマネジメント

1 NPOのリスクとリスク・マネジメント
2 リスクマネジメントのシステム
主要参考文献

非営利とは、剰余を分配しないことと説明される。すなわち、事業の結果として剰余が生じること自体は問題とされない。しかし、この剰余をNPOの意志決定者である理事や意思決定にかかわることのできる会員に分配することはできない。これは、NPOの意思決定が剰余を生むこと、つまり利潤追求に影響されるのを抑制することがねらいだ。剰余を分配しないことを非分配の原則という。(p.23)

 個人には、信用を担保するものがないとみなされるためだろう。NPOとして法人化を求める理由の一つは、これと同じく、人々の信用確保につながるという期待があるからだ。(…)運営者やクライアントの保護とは、「訴訟社会、アメリカ」ではきわめて重要なポイントだ。(…)法人であれば、原則として法人として責任が問われる(p.35)

 競争は独占という弊害を招く、と長いあいだ主張されてきた。(…)競争のない、あるいはきわめて制約的にしか存在しない場合、製品のサービスの質が向上しない、さらには低下するという自体が生じやすいということも、人々は経験的に知っている。競争があれば、マネジメント努力がなされ、なければ軽視されるからだ。(p.55)

 企業は、製品やサービスの提供に必要なコストに対して価格を設定し、これを顧客から回収する。換言すれば、製品やサービスの受益者がすべてのコストを負担するということだ。行政の運営に必要な資金源は、税金である。したがって、納税者に対してサービスを提供することが原則となる。(…)では、NPOはどうか。(…)企業にとっての顧客、行政にとっての納税者のように、受益者とコストの負担者が同一ではないのだ。そのため、受益者と関係のないコストの負担者をどう調達するかという課題が生じる。(p.58)

 多くの家庭で共働きが一般化し、主婦の専業的なボランティアが大幅に減少した。ボランティアを希望する人の大半は、極めて限定された時間と期間だけしかできない、という状況になっている。この状況は、NPOにとっては、ボランティア確保のための競争が厳しくなってきたことを意味し、確保や維持のための努力を組織のマネジメントに組み込む必要に迫られる。(p.79)

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◆早瀬昇・松原明 (2004) 『NPOがわかるQ&A』 岩波ブックレット618

 ここで大切なことは、「非営利」とは利益を得ることが目的ではなく使命実現を第一に考える営みですが、そのなかには「使命実現のために利益をあげる」取り組みもふくむという点です。つまりNPOは収益活動もしますが、その利益の使命実現に向けた活動のために用いる組織だともいえます。(p.4-5)

 行政は住民全体の過半数の同意が得られない行動はとれませんが、NPOはみずからその結果に対して責任をとりさえすれば、どのような課題にどのような形で活動し続けるかは自由に選ぶことができます。(p.8)

 憲法第二十一条で結社の自由が保障され、多様なNPOを自由に創設できるようになった一方で、明治時代に始まった公益法人の許可制(一種の免許制)は維持され、NPOが法人格をもつには監督官庁を必要とする官尊民卑的なしくみが継続されました。さらに「公の支配に属しない」団体(つまり民間団体)への公費支出を禁じた憲法八十九条が、民間団体を「公の支配」に属させれば公費補助ができると解され、社会福祉法人や学校法人など行政の監督権の強い法人が作られたことや、憲法二五条で生存権保障を国の責任とする規定により、行政の役割を強く期待する見方が一般化。(p.12)

 どの国も、総論としては温室効果ガスを減らすことに賛成するのですが、では自国の産業を規制するとなると、なかなか「うん」とは言いません。そのようなときに、国としての利害を超えて活動するNPOの働きが重要になるわけです。NPOは、温室効果ガスを削減するための国際的なネットワークをつくり、国際世論を高め、渋る国の政府を説得して、地球温暖化防止に必要な施策をとるように働きかけています(p.18)

 まずNPOは自治体が苦手な多様な公共サービスの創造が得意なことから、その特性を発揮し自治体の限界を超える働きをしてほしい、との期待があります。またNPOには多くのボランティアが参画し民間団体として効率的な運営が目指されるため、結果とs知恵、自治体よりもサービスを安く提供できるとの期待もあります(ただし、市民が自発的に活動するには体制整備などのコストが必要で、「安価なマンパワー」という期待でNPOと共同しても成果は乏しいのが現実です)(p.20)

 かつて、市民活動には禁欲的・自己犠牲的なイメージが強かったわけですが、いまや生きがい作り、仲間作りの格好の機会として活動に参加する人々が増えてきました。(p.21)

 つまり両者の関係は、一方的に援助し援助される関係から、NPOが企業に変わって社会問題を解決する「専門機関」となったり、ボランティア活動に参加したい社員を受け入れる「受け皿」となる場合が出てきました。社員のNPOへの参加は、CSRの基礎たる「社員の市民化」を進めることにもなります。このように、一定の活動実績を上げ専門性をもつNPOは、企業の「慈悲にすがる」という立場ではなく、「支援」する企業にとっても一定のメリットを提供する形で対等な協働関係を築きつつあるのです(p.25)

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◆坂本文武 (2004) 『NPOの経営――資金調達から運営まで』 日本経済新聞社


第1章 NPO経営の時代
第2章 はじめは戦略設定から
第3章 活動の基盤を構築する 資金調達戦略
第4章 企業との連携を考える パートナーシップ
第5章 効率的に組織を運営する 人材マネジメント
第6章 評価を生かして改善する 事業・組織・社会インパクト評価
第7章 法律・手続きの基本を知る

 (…)NPOの場合、サービスを利用する人がその対価を支払うことはあまりありません。その結果、サービスに対する評価が明確にわからず、品質管理、ひいては組織の評価までもあいまいになる可能性があります。NPOでは、サービスにかかる費用は、寄付者や助成団体、企業などによる資金提供や無償のボランティアの労働力で補っています。(p.26)

 小児麻痺(ポリオ)を撲滅することを目的に活動をしていた団体は、全米で長年ポリオの撲滅のための研究助成や啓蒙活動を行っていました。そのかいもあって、90年代には、WHO(世界保健機関)がポリオ撲滅を宣言し、事実上その団体が取り組んでいた社会問題はなくなりました。(…)結論としては、その団体は活動の終了を宣言し、活動を終えました。一方で、ポリオ撲滅のための活動を通して気づいてきたネットワークや知識、収集してきた情報や研究成果を別の社会問題に行き明日ために、新しい団体を作りました。(p.46)

 特定非営利活動促進法では想定していない、「出資」という形態の資金調達を行いました。寄付にしても出資にしても、お金を出す対象の活動は同じなので、意義さえ感じれば資金を支援してもらえるはずです。出したお金が返ってくる可能性のある「出資」という形態をとることによって、これまで「寄付」には見向きもしなかった人たちを巻き込む、一大プロジェクトにすることができたと考えられます。(p.140-41)

 社員個人の自発的なNPOへの寄付を応援する趣旨で、その寄付金額の一定割合を会社が支払う「マッチング・ギフト」方式や、社内での古本市、社内募金を通して集まったお金を寄付する方法などがあります。もっとも有名な事例のひとつが、富士ゼロックスの「端数クラブ」です。希望者を募って、給与の端数部分(100円未満)を天引きにして寄付するグループです。(p.157)

 こうしたケース[コーズリレイティッドマーケティング]では、NPO側は、企業の販売促進に「利用されない」という注意が必要です。売り上げに占める寄付金額とその使途が明確になっているのか、寄付先になるNPOの名前を乱用していないかなど、確認を怠らないようにしましょう。(p.160)

 例えば、千葉県のある介護団体では、生活援助を行う際、利用者から一時間あたりの「料金」を受け取っていました。団体側は、非援助者にとても援助者にとてもまったく無償の心理的負担が強いため、謝礼としてその費用を受け取っていたとのことです。団体側は「寄付」として非課税を主張し、税務署側は「請負業」にあたるとして課税を主張しており、その解釈が法廷で争われています(2003年12月現在)。(p.272)

アメリカの事例を見ているかぎり、NPOの数が増えるにしたがってNPOどうし、企業とNPOとの競合関係が激化するため、生き残りをかけて合併を検討する場合が多いようです。(…)この中で、経費の効率性を高め、サービスの質を向上させるために、中小のNPO が合併することは検討に値するでしょう。事務作業を一本化すれば、それぞれにかかっていた事務経費や事務作業のための人件費を削減できます。お互いの介護スタッフの研修も一括で行うことで、研修経費を削減することもできます。(p.277)

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◆佐藤慶幸 (2002) 『NPOと市民社会』有斐閣

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◆下川辺淳 監修 (2002)『ボランタリー経済と企業』日本評論社

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◆金山智子 (2005) 『NPOのメディア戦略――悩みながら前進する米国NPOのレッスン』, 学文社
目次
第1章 大きく変化するNPOの環境
第2章 変化する環境に適応するNPO
第3章 NPOのメディア利用
第4章 NPOのウェブサイト
第5章 環境要因とウェブ採用、そして戦略的利用の選択
第6章 日本のNPOにおけるウィブ利用の現状と問題

 資金提供者は、自分たちの資金を受けたNPOが物理的に離れた所でどのような活動をしているかを把握し、彼らとコミュニケーションをとらなくてはならないが、ウェブサイトであれば資金提供者はこのような業務を容易に行うことができる。(p.28)

具体的には、ボランティアを希望する地域の郵便番号、業種、機関を入力することで、登録されているデータベースからその条件にあったボランティア情報が表示される。その中から希望するボランティア先が見つかった場合は、サイトから直接希望するNPOの照会のメールを送ることができるのである。(p.63)

 NPOは、コミュニティでの技術ニーズやコミュニティで起きている問題を理解していることから、格差を解消するための手助けとなる存在であり、(…)にもかかわらず、NPOの大半が現行法からは排除されているという現実がある。(p.71)

 つまり、多くのチャリティサイトは、NPOの了解を正式に得ずに寄付金集めを行っており、また寄付の一部も勝手に徴収しているとの理由で、NPO関係者からはこのような再と運営に対する批判があがっている。(p.74)

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◆岸田眞代 編 (2005) 『NPOからみたCSR――協働のチャレンジ ケース・スタディU<>』, 同文館出版/a
第T部 基礎知識編
1 企業の社会的責任(CSR)とはなにか
2 CSR −アメリカ企業の地域戦略
3 NPOと企業の新しい関係 −アメリカを中心に
4 NPOと企業の新しい関係 −日本を中心に
第U部 ケース・スタディー編
第V部 資料編 −データに見る第2回パートナーシップ大賞

 (…)1つには、NPOが本来もっている社会的支店から、企業のCSRや企業活動そのものをチェックしていく「チェック機能」、2つ目には、そこから生じてきた具体的な課題に対する「提言機能」、3つ目には、企業と協働することでCSRを実践していく「パートナー機能」、4つ目には、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーの「コーディネート機能」、そして5つ目は、パートナーシップ大賞やコンサルティングを通じて提示していく「評価機能」などがあるのではないかと考えられます。(p.19)

 つまり、企業がどんな社会活動を行っているかをつかんでから、その企業がいいかどうかを判断するという人が3人に2人はいるということです。逆に、無責任な企業は顧客(消費者)からボイコットされない危険性を抱えているということです。(p.37)

 企業が気にしているのはやはり社会からの評判であり、逆に評判が悪いとビジネスに悪影響を与えることが、この5〜10年でますます明確になってきています。(p.81-2)

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◆田中弥生 (2005) 『NPOと社会をつなぐ』 東京大学出版会


T イントロダクション NPOのミスマッチ問題
1章 社会とNPOのミスマッチ問題:「進化」する課題
U NPOと社会をつなぐ −インターメディアリとは何か
2章 ミスマッチの解決とインターメディアリ事例
3章 インターメディアリはどう機能するか
4章 インターメディアリと評価問題
V NPOの評価はどのように行うか −理論と実践例を学ぶ
5章 NPO評価とは何か
6章 評価手法の展開:歴史的な展開と現在
7章 評価の基本設計
8章 イノベ−ションのための評価:ドラッカーの自己評価手法
W インターメディアリの設計 −社会装置としての機能と方向性
9章 インターメディアリに求められる評価
10章 インターメディアリに求められるもの

 「シビル・ミニマム」とは、美濃部(亮吉)と政治時代に松下圭一氏によってつくられた造語で、「ナショナル・ミニマム」 と対応する言葉として用いられるようになっている。そこにはふたつの意味があり、第一に市民の権利、賃金、社会保障、社会資本、社会保険の各方面において満たすべき一定の基準というものである。第二には、自治体の政策公準という意味で、市民内部に統治能力を育成しながら、市民の権利基準を確立するために政策を設計するということである。(p.A)

 「インターメディアリ」とは、(…)情報、相談、仲介斡旋、さらには活動を評価しフィードバックするまでのサービスを提供することで、NPOと資源提供者にかかる負担であるトランザクション・コスト(取引コスト)を軽減し、信用保証をしながらマッチングを行う。経済の世界での証券取引所のようなものを思い浮かべてもらえば理解しやすいだろう。(・・・)だが、同時に”あえてコストをかける活動”も行っていた。それが「NPO評価」であり、これは資源提供者への信用保証という意味を持っていた。だが、価格メカニズムのようなユニバーサルな評価システムのないNPOを、いったいどのように評価するのか。先の経営学者の指摘はその意味で正しいのである。(p.C-D)

 (・・・)ボランティアや寄付希望者が適当な非営利組織を見つけられずに諦めてしまったり、適当な非営利組織に出会ったが条件があわず、寄付やボランティアを断念する現象(・・・)、非営利組織のサービスを受ける人々(受益者)の希望や好みとサービスの内容がかみ合わなかったり、受益者にとってありがた迷惑になっている現象(・・・)、官僚システムの国際機関と柔軟性を重んじるNGOとの間で、プロジェクトの進め方に不一致が生じる(・・・)、援助機関が提供する金額が大きすぎて途上国の小さなNGOが消化しきれない(・・・)。(p.3)

 彼女は、高齢者が社会参加の機会を欲していること、それにはボランティアが適していることを主張していた(高齢者意識と周囲のミスマッチ)。しかし、当時彼女の主張を理解する人は少なかった。むしろ一般には「高齢者はこれまで社会に奉仕し続けたのだから、余生は逆に面倒をみてもらいたがっている」と考えられていた。(p.30)

 多額の金を全く見当違いのテーマに寄付しようとする資産家が少なくない。近隣の教会のために夜間照明装置をつくるようにと、使途を指定して数百万ドルの寄付をしようとする人、猫の保護のために80万ドルの寄付をしようとした老婦人など、寄付金とテーマのあいだでミスマッチが起こるケースがある。このようなミスマッチを解消して、コミュニティで今もっとも必要とされているものがなにであるのかを伝えるのは、ドナー・リレイション部門の仕事である。(p.42-3)(・・・)また30年前に「ポリオ」絶滅のためにと設立された基金はもはやその使途を失っている。(p.53)

 信託として永遠に残る財産は、一度使途を指定すると変更が困難である。時代が推移するにつれて問題が解決し、使途を失うこともある。(p.43)(・・・)予算はあるのだが、自由になる助成金がないのである。(p.44)

 「同財団に資金を委ねれば、より効果的な寄付ができる」という信頼を獲得するためには、資金運営と同時に優れた女性能力を身につけなければならない。(p.52)

 たとえば、資源配分に関心を抱きはじめたばかりの者と、自分の関心が明確になり資源提供方法を模索しはじめた者では、必要とする情報の内容が異なる。このように異なるニーズを有するものに一律のサービスをしていたのでは、効果が薄い。インターメディアリが対照の態度の変容とニーズの変化にどのように対応していくのか確認する必要があ(p.86)。

 (・・・)民間非営利組織には企業セクターにおける利潤のような統一されたボトムライン(評価基準)がないので、民間非営利組織の事業を評価することは容易ではない。民間非営利組織はその構成員の共通の価値観や関心に基づいて組織され、目標から業績まで自ら決定している。(p.109-10)

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◆田中弥生 (2004) 『「NPO」幻想と現実』, 同友館


序章 NPOは本当に人々を幸福にしているのだろうか
第1章 NPOとは何か?
第2章 NPOの課題
第3章 資源をめぐるNPOのミスマッチ問題
第4章 ミスマッチ問題の分析T マネジメント理論の適用
第5章 ミスマッチ問題の分析U トランザクション・コスト理論の適用
エピローグ
参考文献

 (…)善意の行為であるだけに、自分たちの好みやニーズと異なるサービスや物を提供されても容易に断れないのである。そのように考えると、善意にはある種の強制力があるように見える。そして、この善意の強制力ゆえに、善意があだになることがあるのではないか、と思うのである。(p.7)

 (…)NPOは公益を求めるが、政府のような公平性の原理で活動していない。むしろ公平性ゆえに受け入れられることの少なかった少数意見を代弁するのであって、特定個人の価値観や志向に基づいた私的な存在といえる。(p.46)

 点字図書館にとって、悪いことは、ボランティア活動がまったく自己目的化して対象のことが配慮に入らない人々が集まる傾向にあることである。(…)肝心の視覚障害者のニーズは視野から離れがちだ。一方、点字図書館は、点字翻訳作業が過酷でありボランティアを募集するのは困難であるのを知っているので、ボランティアが希望する資料翻訳を視覚障害者の希望図書よりも優先しがちになる。(p.161)

 「NPOには市場というものが存在していない。だから、インターメディアリは不可能だ」 だが、事実は異なっている。インターメディアリ役を担うNPOが、米国、欧州、そして途上国といわれる国々で存在しているからである。(p.173)

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◆鳥居昭夫・岸井大太郎 編 (2005) 『公共事業の規制改革と競争政策』法政大学出版局


第1部 規制改革と独立規制機関・競争当局
 総論 規制改革と独立規制機関・競争当局 岸井大太郎
 第1章 ドイツにおける独立規制機関 稲葉馨
 第2章 イギリスにおける独立規制機関 廣瀬克哉
 第3章 日本の行政委員会制度と規制機関の制度選択 伊藤正次
 第4章 規制当局と競争当局の関係 米国との比較を中心に 栗田誠
第2部 市場支配力と規制改革
 総論 市場支配力と規制改革 岸井大太郎
 第1章 EU競争法における「支配的地位(dominant position)」 岸井大太郎
 第2章 クレイトン法7条と「競争の実質的減殺」 岡本直貴
 第3章 独占禁止法の「競争の実質的な制限」に関する体系的理解の再編成について 稗貫俊文
 第4章 市場支配力の推計 市場支配力の推計方法と仁尾ほんのインターネット接続市場におけるスイッチング・コスト類型の試み
 第5章 電力市場における市場支配力 竹中康治

「支配的地位とは…事業者が保有する経済的力に基づく地位にかかわるものである。それは、当該事業主に認知可能な程度、競争者、顧客そして最終的には消費者から独立して行動する力を付与することにより、関連市場において有効な競争が維持されることを防げることを可能にする」 ここでは、有効な競争が妨げることができるという競争機能論的契機と競争者・顧客から独立して行動できるという自由論的契機とが、両者の関係が明確にされることなく並存している。(p.137 第2部第1章)

 長期的には市場支配力は非効率的投資をもたらす。これについては2つの可能性が考えられる。第1に、支配的発電企業が潜在的企業に比べて非効率的な場合、支配企業の電力量抑制によって、新規参入企業が効率性の劣る設備で参入する可能性がある(非効率参入)。 第2は、支配的企業が過大な投資によって新規参入を阻止できる場合である。先のケースとは逆に支配的企業が過大な投資と関連して社会的に非効率的な技術を選ぶ可能性がある。(p.248 第2部第5章)

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◆林雄二郎・今田忠 編 (2000) 『改訂 フィランソロピーの思想――NPOとボランティア』 日本経済評論社


第一部 日本社会とフィランソロピー
 第一章 なぜ今フィランソロピーか? 林雄二郎
 第二章 フィランソロピーへの偏見と誤解 青柳潤一
 第三章 日本人のフィランソロピー思想 今田忠
 第四章 静かな革命 出口正之
第二部 フィランソロピーの環境と担い手
 第五章 フィランソロピーの法と行政
 第六章 フィランソロピー関連組織 今田忠 高田幸詩朗
 第七章 フィランソロピーの担い手 助成財団 久須美雅昭
 第八章 フィランソロピーの担い手 島田京子
第三部 21世紀のフィランソロピー
 第九章 シビル・ソサエティとNPO
 第十章 市場原理とフィランソロピー原理
 第十一章 フィランソロピーの新しい流れ 今田忠
 参考文献
 あとがき

 日本では公共的精神を発現する場なり条件が整っていないのであり、そのための条件整備が行われれば日本でもフィランソロピーが活性化することを、阪神・淡路大震災という不幸な事件が証明してくれた。(p.43 第三章)

 第二次世界大戦後日本は憲法第25条により(…)、基本的な福祉は国家の責任とされた。また第89条に「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、または公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、またはその利用に供してはならない」と定められ、民間社会福祉事業に対して国家が介入するのを禁止した。(…)そのような中にあって1947年11月に「国民助け合い運動」の一環として共同募金運動が始められ、民間福祉を民間資金で支える仕組みができたのである。しかし共同募金はGHQの意向を受けて厚生省主導で始められたもので、民間の自発性に発した運動ではなかった。(p.49 第三章)

 ボランティアは事前登録なしに朝九時から従事までの間に「市民の会」の事務所に行く。受付を済まし、簡単なオリエンテーションを受ける。ポストイットに自分の名前と参加回数を記入。求人票から希望する活動を選び求人表情に自分のポストイットを張貼る。そして活動ごとに詳しい説明を受ける。被災者のところへ出発し、ボランティア活動を行う。事務所に帰り、ポストイットをはがし、活動報告書を記入する。(p.69 第4章)

 少しでも利点(強み)があれば、ボランティアとしてそれを生かし、弱いところがあればボランティアの力を借りる。この「強弱のネットワーク」が自然にボランティアを発生させた。(p.73 第4章)

 民間の自発的寄付である義捐金は本質的にはボランティアと同じ性質を有する。(…)しかし、義捐金は集められたとたん「官の論理」に支配された。そこには明白な設計主義が入り込み、義捐金全体を一元的に掌握し、秩序を作ったうえで配分しようとしていた。(p.81 第4章)

 もし多くのマスコミが批判するように、雲仙、奥尻の時と一人当たりの配分額に不公平があるということが問題であるならば、義捐金は税金でまかなうべき性質のものなのであって、義捐金が寄付金であることの性質はまったく無視されることになる。人々が企業が自発的に、公平性とは関係のないところで集めた義捐金は、本来「シビルの論理」にしたがって使われるべきものだ。出せる人が出せるだけのお金を出して集めた義捐金である以上、必要な人が必要な額だけ使ったらよいのである。(p.87 第4章)

 日本のフィランソロピーの有力な資金源として公営ギャンブルがある。フィランソロピーを志とか思想とかいう捉え方をするとギャンブルをフィランソロピーとは何事かということになるが、フィランソロピーを社会システムにとして捉えると、公営ギャンブルは非常に巧みなフィランソロピーのスキームである。(…)公営ギャンブルや宝くじは終戦直後の地方財政の逼迫を救うために考えられたものであるが、元来は民の自発的資金であるから、配分については民間の創意工夫にゆだねるほうが望ましいことは言うまでもない。(p.125 第6章)

 贈与経済や協働経済には、市場経済における価格のようなパラメーターが存在しないから資源の最適配分は保障されない。(…)強制された贈与は精神的負担を伴う。カネで済むことであれば、自治会の当番はやりたくないのが本音かもしれない。(…)教育の一環としてボランティア活動を義務化せよとの議論もある一方で、ボランティアは義務付けるものではないとも言われる(p.246)

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◆Boris, Elizabeth. T., & C. Eugene, Steuerle. (eds.). (1999). Nonprofit and Government. Urban Institute. (=2007 上野真城子・山内直人 訳 『NPOと政府』, ミネルヴァ書房)


第1部 NPOと政府の関係:概説 
 序章 民主的社会におけるNPO:多彩な役割と責任 エリザベス・T.ボリス
 第1章 相補か、補完か、敵対か デニス・R・ヤング
第2部 政府とNPOセクターの間の資金流動
 第2章 社会需要を満たす:NPOセクターと政府の資源の比較
 第3章 NPOセクターと連邦政府予算:最近の動向と今後の展望
 第4章 NPOの税措置:両刃の剣か?
 第5章 政府によるNPOへの資金提供
第3部 NPOと公共政策の展開
 第6章 NPOと地方分権:われわれは何を知っているか?
 第7章 なぜ営利ではないのか:営利転換と公共政策
 第8章 価値の衝突:国家、宗教、芸術
 第9章 NPO・アドボカシーと政治参加
第4部 国際的次元
 第10章 国際的視野からみた政府とNPOの関係

 米国ではNPOは基本的に連邦政府の税法によって定められ、規制を受けている。NPOは利益を配分せず、歳入庁規定によって示される公的な目的に沿ってつくられた組織であるゆえに連邦税が免除される公的組織である。宗教団体を除いて、年間収入が5,000ドルを越えるすべてのNPOは内国歳入庁(IRS)に登録しなければならない。年収2万5000ドル以上のNPOは毎年、様式990(民間財団は990PF)をIRSに提出しなければならない。様式990はNPOの財務的情報データの基礎を示すものである。広範な公的目的に奉仕し、教育、宗教、科学、文芸、貧困救済、その他の公益活動のために組織されたNPOは税法501条(c)(3)項のもとで慈善事業資格を申請できる。この「慈善」資格により団体は税控除される寄付が得られるようになる。このようなNPOは、広く公共に奉仕し、免税組織の大半を占めるもので、本章のほとんどの章が焦点を当てているものである。(p.3)

 なぜNPOは存在するのだろうか。学者はこの質問に彼らの学問領域やその方向性のよって異なった答えを出す。NPOによって提供される公的サービスや多様な公的サービスの資金調達における政府とNPOとのパートナーシップを説明する方法として、経済理論は「市場の失敗」、「政府の失敗」、「NPOの失敗」といった概念を含めて考えている。
 市場の失敗は、企業を引き付けるには十分な潜在価値を持たないが、一般に必要とされるものやサービスが存在するという概念に基づいている。市場の失敗はまたサービスの質についての不十分な情報によって促進される。そうした不十分な情報によって消費者は利益志向ではないから信頼できるものと思い、NPOに向かっていく。同様に政府の失敗は、費用やサービスが一貫しては望まれないという理由で、政府が供給できない公的サービスがあることを意味している(Weisbrod 1988; Hansmann 1987)。
 「NPOの失敗」は、政府を通して人々が求めるサービスの資金調達をする必要性のから生み出されたものとして、NPOと政府のパートナーシップを説明する。この理論では、NPOは好まれるサービスの供給者であり、政府の行動はNPOが必要とされる需要にこたえきれないときにのみ必要になるということである。(・・・)(pp.12-13)

 NPOは政党を非難し(または支持し)、そしてよく金が入るグループは世論を操作し、特定の主義をはびこらせ、または公共政策に不釣合いな影響を持つことができる。低所得層は彼らの利益を代表しうるグループにアクセスし難いために、政策の過程では不利である可能性がある。まだ確認された事実ではないが、NPOはその免税資格ゆえに同じ市場においては企業より有利であるようだ。(pp.19-20)

 政府は、市民の選好に基づいて公共財提供のレベルを決定するが、しかしそれは公平性への配慮、課税、公共財の提供を公平に統一的な方法で行なうため行政過程などによっても制約される(Douglas 1987)。民主的な投票と政策形成過程があるため、一定の課税とサービスのレベル、タイプ、質を選ぶ場合、政府は支配的な政治連合の中間投票者の選好に従う(Buchanan & Tullock 1962)。もし市民の選好が一様でなければ、特定の市民(その選好が中間投票者のそれとは大きく異なる場合)は不満足のままで置かれ、彼らは望むより多くて多様な公共財を受けて望む以上に支払うか、ないしはより少なく払って希望より少ない公共財を受けるかのいずれかになる。後者の市民は、NPOを通し、ボランティアの集合的基盤の上で動員された追加的なレベルの公共財の提供を希望すると考えられる。(・・・)また、民間財はふつう公共財の不完全な代替物でしかない。したがって、NPOには公共サービスを補うという役割遂行の余地がまだまだたくさんある(pp.29-30)

 では、もしNPOがより信頼できるならば、なぜ政府はそれを統制する必要があるのだろうか。契約の失敗の理論にはふたつの理由が示唆されている。第一に、NPOの信頼性は部分的にはその非分配的制約と、NPOの統治構造の統合性とに根ざしている。であるから、これらは監督されねばならず、それこそ政府の役割となる。政府は、非分配制約が本当に実現しているかを確認しなければならず(Young 1983)、またNPOの信頼性を確保するために理事会構成は適切な条件を満たしていなければならない。
 第二に、契約の失敗は、認可、認定、競争、その他の方法を含むさまざまなアプローチや解決策を必要とする広範の現象と捉えられる。NPOの活用は、武器庫にある一つの兵器である。つまり、当該問題の解決に対して必ずしも完全な解決策とはかぎらない。NPOはまた、時としてよせられた信頼を裏切ることもあり、さまざまな市場で政府が営利供給者を監督する時に使う監督機能がNPOにも適用されることもある。(・・・)
 最後に、NPOと政府とは、それぞれにとって影響の異なる対象をそれぞれ独立に追求するという単純な理由から、互いに敵対することもある。例えば、税を引き下げ、税制を簡素化しようという公共セクターの意図は、NPOを傷つけようと意図したわけではないが、実際にはそうした効果をもつ。それ故こうした場合、政府の行動はウェイスブロッドの公共セクター意思決定モデルを反映して、多数派が公共財と見なすものを認める一方、少数派(NPO)の関心としては、彼らが公共悪とみなすものに反対せざるをえない(p.35)

 政府の強制力が実際に行使されている場合は特に重要であるのだが、人々をあまねく平等に扱うという必要性は時として政府プログラムの自由度を制限したり、新しい試みの芽を摘んでしまったりすることもある。公平な課税と公正な分配という考え方は、政府が同じ状況下の市民を画一的に扱うという傾向を生む。しかし、そのような傾向によって、個々人の要求に応えることが行政的に難しくなってもいる(Douglas 1987 : Steuerle, Gramlich, Heclo, & Nightingak 1998)。それとは対照的に、NPOでは個々の状況に比較的うまく対応することが多いといえる。ただし、それらの対応方法は組織の性格や地域社会の結束力によってまちまちである(Wolpert 1993)。本当に援助が必要な他の地域社会やグループを差し置いて、人々は自分たちの所属している市民グループや協会、地域社会に対して気前よく大枚をはたきがちである。コミュニティーや協会の定義は、使命やアイデンティティを奨励する意味で包括的であると同時に、排他的である。つまり、その中に属していていない人が排除され、組織的使命からはずされているという理由で問題を取り上げてもらえないというようなことが起きる。NPOには、平等に取り扱われているかどうかという基準について案ずる時間や資源もないことが多いので、地理的な条件や会員資格を基準に会員を選ぶ(例えば、Printz 1997を参照)。

 だれが正しいにしろ、個人は高い税金を払うほうが自分のポケットから自発的に寄付をするよりも良いと思っていることは明らかである。では、NPOがもし民間からの寄付に頼らなければならないとした場合、NPOは全ての社会福祉を肩代わりできるのかという命題に行きつく。ボランタリーな努力がそのレベルまで上がると望みたいところではあるが、(一部には自分たちの収入の大部分を寄付にまわす個人はいるが)、どんなに国のさまざまな宗教が寄付に対する価値を美徳化しても、過去に広範囲にわたってその様な寛容な例は存在していない。つまり、近い将来、NPOが自発的な寄付に依存して、医療や老人給付金、若者への一般教育、大学進学のための機会均等といった社会の福利厚生機能を全てないしは相当に肩代わりすることは非常に難しいといわざるを得ない。(p.71)

 一般にみなしばしば「ノンプロフィット」と「税免除」という言葉を混ぜてしまう。NPOの法人体というのは、ゆるく分けて二つに分類される。それは、慈善組織団体(チャリティーズ)と、相互便益組織である。チャリティーズには、教会、学校、病院、そして社会サービス団体組織が含まれる。互助組織としては、労働組合、業界組織、組合教会、そして社交クラブなどが含まれる。連邦政府と州など地方政府の税からの免除は、一般に州法で非営利(ノット・フォー・プロジット、営利のためではない)の法人体として組織された法人と団体に限られているが、NPOが内国歳入法においてその名称を定められる連邦の税法の占める役割は相当に中心にあるので、NPOはその呼称によってしられるものとなるのである。例えば、チャリティー(慈善団体)は「501条(c)(3)」団体と呼ばれる。この章で述べる特別な税措置はほとんどチャリティーにかかわるものであり、互助NPOは一般に所得税免除のみしかえられない。同時に「アクション(実行)」団体、微かなロビーイング活動以上のことにかかわれるのは、一般に501条(c)(4)項の社会福祉団体としてのみで、免除に資格する。この501条(c)(4)社会福祉団体の意味は、寄付者(ドナー)による献金は課税後のものでなければならないことである。(p.123)

 しかし、政府から与えられるものは、同時に取られうるものであり、少なくとも規制されうるものということである。免税資格は政府にただの後援者の役割だけではなく、NPOが免税資格を満たすことができる要件を審査することで、その「正当性」を証明する役割を、またNPOが税制優遇特典を維持するための条件により、その団体がしていいことと、いけないことを規制する役割を持たせている。(pp.123-124)

 政府は税法上、大まかには二つの異なった点でNPOの後援者としての役割を果たしている。第一に、個人や法人に所得税や相続税において、所得に対し寄付額を控除することで、民間寄付が広い領域での慈善事業を金銭的に支援するために、重要な経済的インセンティヴを与えている。一般的な理解ではそのような税額控除は寄付者への課税率に基づき、NPOを支援する現金払いの費用を効果的に減らしている。(・・・)第二に、連邦政府税法は、NPOからの法人税や信託業務税などの納税義務を免除することにより、団体がより多くの財源を慈善的な使命に向けることを可能にしている。寄付控除と団体への免税に加えて、連邦政府の税システムは利子歳入が免除となる「501(c)(3)条項債」の発行許可を与えることでNPOの税免除があらゆる全ての団体の財産や収入に及んでいるわけではない。(pp.124-125)

 慈善団体にとって、適用されるように見える主要な「ひも」としては、ロビー活動の制限と選挙活動の禁止であり、これもまた、先に述べた主権の分析から説明できる。これらの制限は、「公的主権(public sovereign)」が、「あなたが自分の線の内側にいるかぎりあなたの領分は尊重されます。だから政治活動に適度にかかわらないで下さい」という他者への申し入れと理解することができる。同時にどのような商業活動に免税特権が与えられるかといった他の規定も、NPOと営利団体の境界を管理する試みとして理解される(Simon 1987)。

 免税債券を発行できることは、慈善団体に有利なものであり、これにより団体は、受入可能と思われる債券の利率を支えるのに十分な歳入の流れを作れる。更に、NPOの病院は501(c)(3)債券を上限なく発行できるし、1997年の議会は病院以外の慈善団体への1億5000万ドルの上限を撤廃した。投資資産の市場からの利益を得ながら、低利の債券を発行できることは、基金の潤沢な大学などには、たいへん魅力的である。(p.139)

 かたや政府は対照的に、公正という立場からサービスと利用者に向き合う。資金やサービスを配分する責任を持つ政府の役人は、なぜそのサービスをほかではなくあるひとつのグループに提供しているのかをつねに正当化しなくてはならない。なぜなら政府は全ての要望者にサービスを提供することは不可能だからである。民主主義の下では、もしあるグループが不公平に扱われていると感じればそのグループはその改善を求めることができるし、政府の役人はそのようなグループと市民全般に自分たちの政策選択を説明できる(Moe 1990)。公正ということについては、多様な解釈が成り立つが、しかしそれは社会医療サービスでは、ふつう、フェア(公正)であると見なされる基準は、たとえば収入、地理的場所、現在の病状の深刻度など、資源を配分するために、定義される必要を意味する。(p.167)

 わずかの資産しか持たない新設のNPOにとっては、もともと分配するもの自体がないので、「非分配原則」はそれほど大きな制約とはならない。しかしながら、もし組織が成功していて、資産の市場価値が上昇していれば、経営者と理事は資産の一部を自分たちに配分したいと感じるようになる。同時に、組織の成功により、営利団体として株式資本を利用できる可能性が高くなる。公共政策が「非営利原則」と反する。または弱めるやり方で営利転換を許可していれば、その時点で営利転換は起こることになる。(pp.223-224)

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◆Salamon, M. Lester. (1995). Partners in Public Service. The John Hopkins University Press. (=2007 江上哲監訳 大野哲明・森康博・上田健作・吉村純一 訳 『NPOと公共サービス――政府と民間のパートナーシップ』, ミネルヴァ書房


第T部 理論的展望
 第1章 公共的管理の再検討―「第三者による政府」と変わりゆく政府活動の形態
 第2章 市場の失敗・ボランタリーの失敗・第三者による政府
第U部 一般的現実 ―非営利セクターと政府
 第3章 非営利セクターとは何か
 第4章 地方レベルにおける非営利セクター
 第5章 連邦予算と非営利セクターの収入
 第6章 地方の福祉制度における政府と非営利組織のパートナーシップ
 第7章 政府と非営利セクターの相互依存の規模
第V部 政府支援の結果
 第8章 政府と非営利セクターとのパートナーシップの実際
 第9章 公益セクターの慈善的行動 ―社会サービスの事例
第W部 小さな政府の衝撃
 第10章 レーガン革命と非営利組織 ―失われた機会
 第11章 1981年年税法の個人的慈善寄付への影響
 第12章 小さな政府次代の政府とボランタリー・セクター ―アメリカの経験
第X部 将来への動向
 第13章 ボランタリー・セクターと福祉国家の将来
 第14章 福祉の市場化 ―アメリカ型福祉国家における非営利と営利の役割の変化
 第15章 世界的なアソシエーション革命 ―正解的な規模でのサード・セクターの台頭

 まず第1の理論群の中で、ボランタリー・セクターは経済学者のいう「市場の失敗」と「政府の失敗」が重なった結果として、すなわち民間市場と政府には、「集合財の供給者」としていずれも限界があるがゆえに生じたと考えられている(Weisbrod, 1977)。「集合財」とは、たとえば国防であるとか、きれいな空気のように、ひとたび生産されれば、代金を支払うにせよ支払わないにせよ、万人が享受できる生産物またはサービスを指す。このような財が市場を通じて排他的に供給されるとするならば、支払いをしなくても享受できる生産物を敢えて自発的な支払いを申し出る消費者はほとんどいないわけだから、供給不足が生じるのは事実上間違いない。また、市場の需要が低ければ、製造業者によるこれらの財およびサービスの生産は、公衆が実際に必要とし要求するよりも少なくなる。この現象は、一般に「ただ乗り」と呼ばれており、経済学の伝統的理解では、政府の関与を正当化する主たる根拠となっている。政府であれば「集合財」を生産するために国民に負担を負わせることが可能なので、上述の「市場の失敗」を克服できるという考え方である。(pp.45-46)

 民間非営利セクターが必要とされるのは、集合財に対するこのような「満たされない需要」にこたえるためにである。市場の失敗/政府の失敗の理論によると、民間非営利組織は、コミュニティの最多数ではなく、その一部が必要とする一定の「集合財」を供給するために存在するとされる。したがって、社会が多様になればなるほど、社会はおのずと広範囲にわたる非営利セクターを抱き込まれざるを得なくなる。しかしながら、非営利セクターは、政界全体が支持しているわけでもない財やサービスの提供に政府の代役と考えられるわけだから、政府が非営利組織を支援しなければならない理論的根拠はほとんどない。逆にこの理論に従えば、非営利セクターは、政府が供給しない財を提供するという本来の理論的存在理由を自ら侵すことになる。このように、市場の失敗/政府の失敗の理論からすれば、政府と非営利セクターとの協調体制などまず起こりえないことであり、たとえ僅かでもそうした協調体制が現に存在するという事実を正当に説明するのは容易なことではない。(p.46)

 アメリカ社会における福祉国家は、従来の理論で描かれるような官僚主義の一枚岩的な組織なのではまったくなく、政府の役割を果たすために、かなり多岐にわたる第三者機関を活用している。その結果、「第三者による政府」という複雑なシステムが生み出され(Salamon, 1981)、政府は、このシステムのもとで公的資金の支出や公的権限の行使をめぐる自由裁量権を第三者機関の実務者とかなりの程度共有しあっている。(p.48)

 要するに、政府による非営利機関の支援という広範囲にわたる形態は、サービスの費用と質に対する比較的最近の関心のみならず、アメリカの伝統に深く根ざした統治方式をも反映した、第三者による政府というより大規模な形態の一例である。第三者機関による政府という概念は、階層性の官僚主義的な機構という従来のイメージとは異なり、公共機関と民間の機関とが広い範囲にわたって責任を分担し合い、アメリカの福祉国家の象徴でもあるが、国家の役割と民間の役割を幅広く融合させているという点を重視する。一定の政策的目標を達成するために、数多くのさまざまな機関が強調しあわねばならないという理由から、このような政府活動の形態によって公共行政の職務がかなり複雑化し、アカウンタビリティに対する義務や管理の点で実務的な問題が派生するのは事実である(Salamon, 1981, Smith, 1975a; Staats, 1975)。

 (ボランタリーの失敗) すなわち、政府こそ市場の失敗に対応すべき代表機関であるという見方を捨て、政府ではなくボランタリー組織こそ主要な対応機関であると見なすわけである。このような新たな視点に立つと、ボランタリー組織は、「政府の失敗」、すなわち集合財の供給機関である政府の固有の限界を補う派生的機関ではなく、議論の方向を逆転することによって、政府こそ「ボランタリーの失敗」、すなわちボランタリー・セクターもしくは非営利セクター固有の限界に対応する派生的機関であると見なすことが可能となるのである。
 このような再公式化を提案するのは、主として、集合財の不足に対して政府の対応を促すことに伴ういわゆる「取引コスト」が、ボランタリー・セクターの活動を促す場合に必要な経費よりも、一般的にははるかに高くつくからである。政府が腰を上げるためには、大多数の民衆の意識が高まり、公務員が啓発され、法律が立案され、大多数の人々が結集され、政策が実施されるのを待たねばならない。それに対して、ボランタリー・セクターの活動が生じるには、独自に活動している個人、もしくは外部からの寄付によって活動している個人が、ごく僅か一握りいれば十分である。したがって、一般的には民間非営利セクターが、「市場の失敗」とみなしうる状況に最初に対応し、その対応で不十分であると判断できる場合のみ政府の対応が求められる、と考えるのが理に適っている。このように考えれば、政府の関与は、民間非営利セクターによる活動に取って代わるというよりも、それを補充するものであることが明らかとなる。(p.51)

 ところで、政府の関与を余儀なくさせ、かつボランタリーセクターに対する政府の支援を正当化する「ボランタリーの失敗」とはいかなるものであろうか。大きく分ければ、4つの要素がある。第1にはフィランソロピーの不足、第2にフィランソロピーにおける専門主義、第3にフィランソロピーにおける父権主義、そして最後にフィランソロピーにおけるアマチュア主義である。(p.52)

 民間による支援がボランタリー・セクターを支える唯一の拠り所であるかぎり、慈善的寄付による財源を支配する立場のものが、同セクターの活動内容と支援対象についての決定権を握る。ボランタリー・セクターの性格は、こうしたコミュニティ全体の意向ではなく、財力のある構成員の意向によって形づくられる。その結果、それらの構成員により支持される。例えば芸術などのサービス事業は促進されるが、裕福ではない人々が求める支援事業は抑えられてしまう。さらには、個人によるこのような寄付は、課税控除の対象となるため、民主的な決定プロセスを経ないまま、民間消費支出の割合だけでなく、一律的な公的歳入の割合においても影響を及ぼすのである。
 このような状態は、非民主的であるばかりではない。この状況のもとでは、裕福でない者は、自分たちのために提供される財源に対する発言権がないために、自分たちは依存状態にあるのだという自滅的な感覚を彼らに抱かせてしまいかねない。支援は、権利としてではなく、慈善として施される。(p.55)

 第1に、組織は本質的に会員に奉仕するのか、あるいは公共に奉仕するのか。すなわち、組織自らの会員へのサービス供給に重点が置かれているのか、それとも、より広義な市民へのサービス供給に重点が置かれているのか。第2に、組織は実際にサービスを供給するのか、もしくはただ単に、他のサービス供給機関に資金を配分するだけなのか。そして第3に、組織が供給するサービスは非宗教的なものか、または儀礼的な一種の宗教的なものか。
 これらの特質に基づいて、非営利組織の大部分は、おおよそ4つの異なる部類に分類可能である。第1は、資金供給機関、ないし資金調達仲介機関である。これらはサービスを提供するというより、むしろサービス供給を行う書記官に財源を配分するために存在する。(…)非営利セクターの第2のグループは、会員奉仕組織である。これらは、社会ないしコミュニティ全般というよりはむしろ、主に組織と直接関係のある会員に財もしくはサービスを供給するために存在している。(・・・)第3は、他人に奉仕し、困窮者に財やサービス(情報提供ないしアドボカシーを含む)を提供したり、さらには社会福祉全般に貢献するために主として存在する公益組織である。(・・・)。第4のカテゴリーには、宗教団体、ないしたの本来的に神聖な宗教的機能を遂行している諸団体が含まれる。(pp.62-63)

 非営利機関の独立性が政府機関によって阻まれている可能性を持つという懸念は、なお民間の財源によっても阻まれるという視点からも検証されなければならない。非営利セクターは独立しているとの考えは、結局誤解であるといえる。財政的には非営利セクターというものは、ほとんど不可避的に依存的な――もし公共の基金でなければ民間の基金に――ものなのである。そして歴史的には、民間基金はしばしばどの視点から見てもひも付きで現われてきたものである。紐付きは非営利機関の独立にとって厄介な脅威ですらあり、それはこれまで政府がなしてきたものにも劣らないといえよう。ほんの少しでも公共的資金を受け入れれば、徐々に独立性が消失してしまうであろう懸念が根拠を持つためには、少なくとも民間の資金だけに依存しているある種の組織も同じようにその独立性を阻まれているという考えと、秤にかける必要がある。(p.119)

 政府と非営利セクターの関係についての伝統的なイメージが持つ主要な問題点の1つは、政府が、アメリカの現状においてもさらには他の多くの国においても、それがどのように機能しているかに注目してこなかったことである。少なくとも人的サービス分野では、合衆国政府―特に連邦政府―自らはまったく活動していない。政府は、なすべきことを他の機関―政府、市政府、郡政府、銀行、製造会社、病院、高等教育機関、研究機関等々を通じて行っているのである。その結果、第三者による政府という巧妙なパターンが生まれたのであるが、そこでは政府は資金とともに、誰にどのようなサービスを提供するのかという裁量権のかなりの部分を組織に与えるようになり、方向性を設定するだけになった。したがって、実際のサービス供給のほとんどをその組織が行うようになった(Salamon, 1981, 第1章を参照)
 政府活動のこのパターンは、合衆国における公共サービスの要求とそれを提供すべき政府官僚に対する反感とのあいだにある昔からの対立の産物である。「第三者による政府」はこれら2つの競合する考えかたを調整し、国の行政機関を過度に拡張することなく一般の福祉を増進する範囲で政府の役割を拡大する方法として現われた。そこでの法制度はある目的―それが融資の拡大であれ、保健医療の提供であれ、社会サービスの創出であれ―を果たすために幅広く運用できるという点で、どんな政府プログラムが設定されていようと、組織は重要な役割を法律上の権利として求めることができる。事実、政府は、適当な組織が存在しない場合、政府官僚制を拡大することなく公共目的を達成するためにそのような組織をしばしば作り上げてきた。(pp.208-209)  

 要するに、合衆国において福祉国家の拡大が非営利組織を閉め出さなかった主な理由の1つは、政府が財政上予算化されたサービスの給付を広く非営利組織が依存してきたということである。政府と非営利組織の2つのセクターが関与している分野では、しばしば非営利組織は政府が予算化したサービスの主たる施行者である。合衆国の人的サービス提供システムを形づくっているのがこの政府・非営利組織パートナーシップなのである。(p.210)

 思うに、多くのボランタリー組織が生き残るためサービス料金収入に依存すればするほど、ますますそれらの組織は支払い能力のある顧客に合わせてサービスをするように強制されるだろうし、さらには最もサービスの必要な分野からますます焦点がはずされるであろう。このことは、われわれの調査から出てくる2つの追加的事実から見て特に厄介な問題である。第1に、予想を超えてほとんどの組織が貧困者に注目するということがまずなくなる。(・・・)。第2に、組織の圧倒的多数は、貧困者へのサービスにおいては、以前よりも政府助成が重要な役割を果たすことを認めている。政府助成が減少するにつれて組織の貧困者への配慮が弱まる可能性があるのは明らかである。(pp.218-219)

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◆島田晴雄 編 (1993) 『開花するフィランソロピー――日本企業の真価を問う』, TBSブリタニカ


序 企業の社会的役割と貢献――島田晴雄
第T部 フィランソロピーの理論
 第1章 公益活動の基礎理論――山田太門
 第2章 非営利民間組織と企業フィランソロピー――塩澤修平
 第3章 環境保全と企業フィランソロピー――細田衛士
第U部 企業フィランソロピーの現状
 第1章 日本の企業フィランソロピー――今田忠
 第2章 アメリカの企業フィランソロピー――出口正之
 第3章 ヨーロッパの企業フィランソロピー
     ヨーロッパ全般――土肥寿員
     イギリスの企業フィランソロピー――勝田哲司
     フランスの企業フィランソロピー――今田忠
     ドイツの企業フィランソロピー――土肥寿員
あとがき ――関成一

 これらの議論が示唆する重要なポイントは、営利主体の短期的な目標追求が、本来長期にわたって大切に育成され進化されるべき準公共財・サービスの市場を断片的に食い荒らしてしまうかもしれないという強い警告である。政府にも供給の難しい準公共財・サービスは、単純に取り扱うにはあまりにも動態的であり、また容易に傷つきやすく、その意味できわめて微妙な財・サービスであろうといえよう。しかし、「契約の失敗」の理論を裏返せば、もしも営利主体が短絡的なエコノミック・アニマルぶりを慎みさえすれば、民間の個人や企業にも公益的な財・サービスの優れた供給者になれるチャンスは十分にあるということでもある。そして実は、企業や個人のなかにある非営利的誘因を呼び起こすことこそが、政府の担うべき役割なのである。(pp.46)

 この場合、「非営利」という言葉に十分注意する必要がある。というのは、日本で非営利といった場合、それがまったくの無報酬で、文字どおり身を挺してサービスに献身することを指すと考えられがちであるからだ。ところが、欧米においてこの言葉(Non-Proift)が使われるときには、論理的に利潤追求(For-Profit)、すなわち「営利」と対照されるのであって、その意味は「決してとことんまで利を追い求めないこと」という類の言葉にすぎない。したがって利潤を負わないにしても、収支の均衡を図るために活動の費用をきっちり回収することは当然であろうし、またそれどころか活動を効率的に行った結果、収益をあげることもあるに違いない。利潤が結果的に発生することと、はじめから利潤の最大化を目的に行動することとの相違には注意すべきである。その意味で、非営利組織に時としてまとまった利潤が生じても不思議ではない。(pp.46-47)

 社会的資源の再配分に関する非営利民間組織の役割を考察するために、前述の公益財の性質と配分機能における非営利民間組織の特質を併せて検討する。1)非競合性、2)排除不可能性をもつ財は、純粋公共財と呼ばれるものなので、営利企業では供給の誘因が働かず、公的部門か非営利民間組織に共有がきたされる財である。3)地域性を持つ財については、A)迅速性、C)直接性が重要な意味を持つ。中央の判断を待っていたり、数々の煩雑な過程を経た後の対応では時機を失する場合が多いので迅速な対応が必要であり、また地域の問題は地域の住民が最もよく知っているので、直接的な対応が望ましいであろう。4)専門性を持つもの、例えば学業や芸術についての資金援助などは、その資金配分の決定に際し高度な審査能力あるいは判断能力が必要であり、政治的な圧力からの独立性も求められるであろう。また新しいものに対する的確な認識が必要である。したがってA)迅速性、D)中立性が重要な意味をもつ。5)大規模性を持つ財の供給には多額の資金と組織力が必要とされるであろうし、広範な分野での協力も求められる。したがってB)自由性を持つ非営利民間組織の役割は大きいと言えよう。6)長期性を持つ財の供給に際しては、短期的な方針や政策の変更は避けるべきである。したがってD)中立性が求められる。また継続的な対応が必要なので、公的部門にしばしば見られる担当者の変更による不連続な対応も避けなければならず、B)自由性も大きな意味を持ってくる。(pp.67-68)

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◆James, Estelle., & Rose-Ackerman, Susan. (1986). The Nonprofit Enterprise in Market Economics. Harwood Academic publishers GmbH. (= 1993 田中敬文 『非営利団体の経済分析――学校、病院、美術館、フィランソロピー』, 多賀出版)


第1章 はじめに
第2章 いくつかの実証的観察:非営利セクターの範囲
第3章 非営利団体形成の理論
第4章 非営利団体の行動モデル:営利企業との比較
第5章 非営利団体の行動モデル:イデオロギー、資金源と競争
第6章 非営利団体と利潤制約形企業との比較
第7章 公共機関の官僚制と民間非営利団体
第8章 政策課題

 つまり、政府による公共財の生産に関してある決定が行われると、人々の中にはそれを民間セクターを通じて補完しようとするものがいるかもしれないのである。
 非営利セクターを簡単に調べてみると、確かにWeisbrodの仮説と首尾一貫しているようである。医療、教育、社会サービスはとても純粋な公共財とはいえないし、外部性(externalities)と称するものの測定も困難であるにもかかわらず、それらはある程度は「公共財」の性質を持っているとよく指摘される。(pp.27-28)

 Weisbrodのモデルは、なぜ公共財の私的供給が存在するのかを説明しているが、なぜこの私的生産が非営利団体によって行われるのかを説明していない。これまでの議論はこの問題に一石を投じるものである。もし人々が「公共的な」特徴の財へ寄付するつもりならば、寄付を集めると言う点では非営利団体が営利企業よりも比較優位を持っているのであるから、「公共」財のもっとも効果的な私的生産者は非営利団体ということになるであろう。ある意味で、非営利セクターというのは市場の失敗と政府の失敗との交差によって定義されるものであり、それはいくつか「公共的な」特徴の財を生産しているのである。(p.28)

 非営利形態は、人々に対して一様でない便益をもたらすような、固定費用が高く、限界費用の低い財の私的供給をも可能にすることがある。総便益は総費用を超えるが、総収入が生産コストを超えるような一定の価格が存在しない場合、そうした財のコストをどのようにカバーすることができるのであろうか。こうした財が「公共財」であって、政府による供給が1つの古典的な回答となる。もうひとつの可能性は価格差別による私的供給である。しかし、もし「高い便益」と「低い便益」を前もって識別することができないならば、価格差別を実行することは困難である。人々は比較的小さな消費者グループの一員であって、大きな消費者余剰を手にするときには、もしフリーライダー問題が解消されるならば、寄付による自発的な価格差別がそれに代わって実行可能となるかもしれない。すると、人々は喜んで営利よりも非営利へ寄付したいと思うようになり、さらにうえの理由から、そうすることを選好することになろう。(pp.28-29)

それでは、どんな理由から政府は公共財や準公共財の生産を自ら行うのではなく委託することがらうのだろうか。また、どんな場合に政府は営利企業ではなく非営利団体へ委託するのであろうか。まず第1に、民間組織のほうがサービスの料金をうまく請求することができるかもしれないので、それに生産責任が委託されると、総費用に占める政府のシェアが減少することになる。例えば、多くの国々の私立大学はそのコストの一部を補うように授業料を徴収している。このことから、委託が行われるのは非排除的な公共財についてではなく、分割可能な私的便益をいくぶんか生み出す準公共財についてであると予想してよいであろう。この仮説は事実と矛盾していないように思われる。
 第2に、民間組織はまた、特に労働に関して、政府機関よりも安いコストに直面することがある、James (1986)は、公共セクターが市場生産水準を超える賃金を法律によって支払う義務があるのに対して、民間セクターは同量の労働力をより低いコストで自由に雇うことができるという多くの事例をあげている。「契約による下請け」は、政府がこの契約を逃れるための1つの方法である。もし公共サービスの供給増圧力に政治家が直面し、しかも増税への抵抗にあるならば、彼は私的生産者への補助によって、納税者の犠牲をより低くしながら供給を増やすことができる。高賃金の公務員でさえ、自分の職と給与が公共生産の減少によって影響を受けない限りは、抵抗しそうもない。(…)さらに、自発的な時間や金銭の寄付の可能性があるところでは、非営利団体は営利企業より寄付に見合う資源を供給することができるかもしれないので、政府によって選好されるであろう。(pp.30-31)

 さらに、有形でない無形のサービスを提供している多くの(?)によって特徴付けられる産業では、政府による監視は非常にコストがかかるものとなろう。提供されるもの測定が困難な場合には、「購入」や「契約」という双方向の言葉ではなく、「補助」や「助成」という一方向の言葉が用いられるのにふさわしい。そのときには、受領者のノンプロフィットという地位が政府を安心させ、監視の代わりとなるかもしれない。つまり、少なくとも補助金が金銭的利潤として非営利団体によって分配されることはないのである。(…)つまり、私的な寄付の小さな国々においてさえどうして非営利団体が存続するのかの説明として、非対称情報とプリンシパル・エイジェント問題が再び現れる。しかしながら、非営利団体が存在するのは、多数の小額寄付者の独自の選択のためにではない。むしろ、基本的な契約条件を設定する権力をもつ1人の多額寄付者――政府――が、最小の政治的コストで準公共財を供給する方法を探しているためである。(p.32)

 すなわち、政府が効率と管理のトレードオフに直面するのと同様に、非営利団体は自立性と資金援助のトレードオフに直面する。多くの場合、均衡は、イデオロギー的志向のような非営利団体にとって一番重要なサービスの性質の管理権を維持しながら、いかに委託と補助を混じり合わせるかにかかっているといえよう。しかし、政府はたとえ効率性を犠牲にしても完全な管理を選ぶこともあるし、また非営利団体もイデオロギー的純粋さを維持するために公的資金を放棄することもある。(p.101)

 民間非営利団体は、政府機関と営利企業の両者の性質を兼ね備えている。それは営利企業のように自発的な支払いにかなりの程度頼っているので、潜在的顧客(寄付者や利用者)に好まれるサービスを提供しなければならない。また、政府機関のように資金的残余を分配しないので、効率性への強い動機が欠如している。さらに、生産物の販売と関係のない収入(寄付金や補助金)が手に入るため、(準公共財の提供や所得再分配のような)通常は公共セクターがかかわる目的の一部を追求することができる。しかし、両者とは異なって、民間非営利団体は広範なイデオロギー(宗教)的な目標を追求するので、その資金調達や生産物の多様性にもイデオロギー的な特徴を見出せるのである。(p.111)

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◆Salamon, Lester, M. (1999). America's Nonprofit Sector. New York. Foundation Center.(= 1994 入山映 『米国の「非営利セクター」入門』, ダイヤモンド社)


第T部 概観――アメリカの混合型福祉経済
 1章 非営利セクターとは何か、そしてなぜ存在するのか?
 2章 アメリカの非営利セクターの構造としくみ
 3章 アメリカの混合型福祉経済における政府の役割
 4章 今日までの経緯――歴史的背景および最近の動向
 5章 保健医療に対する役割
 6章 教育活動に対する役割
 7章 ソーシャル・サービス
 8章 芸術・文化およびレクリエーション
 9章 アドボカシー・法律サービスおよび海外援助

 これら一連の組織は、部分的には歴史的偶然の産物である。しかしその基盤は、以下の緒元の上にしっかりと根ざしたものである。すなわち、公共的な必要性を満たそうとする場合に内在する限界、「市場の失敗」に対処する唯一の代替機構としての政府に内在する限界、平等な個人の間に協力関係を促進しようとする民主主義社会の要求、そしてアメリカ人が多元主義と自由に見出す価値観がこれである。
 非営利セクターが存在する理由は、もちろん、アメリカ社会に特有なものではない。同じ議論は他の社会、特に民主主義的政府機構と市場指向型経済システムを持つ社会にもあてはまる。しかし、これらの組織が、アメリカ的条件の中で特に重要な役割を果たすようになったことは否定できない。アメリカの非営利組織が、これまで述べてきたような期待に常に応え得るかどうかが問われる一方、こうした一連の組織の存在が、コミュニティの重要な構成要素として、また、コミュニティの要求を満たす必要かつ十分な方策として、または、真の「市民社会」にとっての必須の条件として認められるようになったことも明らかである。(p.30)

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◆UP:051121,REV:051128,060412,060528,060905,061208,070204,0415,080401,080929,081009