この報告書の前半にはアメリカの被験者保護政策がどのような背景で成立し、何を目指してきたのかを概観する。後半ではこの政策が社会科学（口述歴史学、人類学、心理学、社会学など日本における「人文科学」研究と密接に関連付けられている分野も含まれる）の研究にどのような影響をもたらし、何が問題となったのかついてアメリカ政府の諮問機関と学術団体の動向を中心に概況する。被験者保護政策とは、施設内審査委員会（Institutional Review Board: IR）に被験者(Human Subjects)の関与する研究計画の事前認証審査を義務付けるという制度の体系を意味する。

　　 この政策は通称”the Common Rule”(共通規定)と呼ばれる規定と「21 CFR 50 および 56」という２つの連邦規制基準(Code of Federal Regulations, CFR）を法的根拠としている。そのうち「21 CFR 50 および 56」は1991年にFDA(食品医薬品局,Food and Drug Administration)が制定した規定で、着色料や食品添加物を含む薬品、食品、機器などを用いる被験者研究に適用される規定である　[注7]。また政府の規定をIRBが厳密に適用するならば、これらの規定は政府機関による直接実験かまたは、または政府機関が研究資金を支援した被験者研究、および食品や薬品を用いる被験者研究に限定される。つまり各研究機関が独自の研究資金に基づいて被験者研究で、かつ食品や薬品を用いない場合には“the Common Rule”が直接適用されることはない。しかし多くの場合こうした被験者研究も各研究機関のIRBが独自に作成する規定では審査の対象とされている。そしてそれらの独自規定の作成にさいしては各IRBに一定の裁量権があるものの、“the Common Rule”や後述するベルモント・レポート、さらにはIRBの独自規定そのものを認証する規定などによって、ほとんどすべての被験者研究はこの政策の対象とされている。

　　 現在、被験者保護政策はアメリカ保健社会福祉省 (Department of Health and Human Services: HHS)の下部組織である被験者研究局 (Office for Human Research Protections: OHRP)がこの政策と各組織のIRBの監督権限を有している。OHRPはHHSに政策の新しい企画や情報提供を行うとともに、IRBの申請に応じて被験者保護の連邦認証(Federal Wide Assurance of Protection for Human Subjects: FWA)の権限をも握っている　[注8]。このFWA認証を取得するか否かは各IRBの判断に任せられているものの、この認証がないIRBには政府機関の研究支援を受ける被験者研究の審査権限がない。そのためその審査ををOHRPに委ねなければならないのである。つまり各IRBにはFWA認証を受けることが奨励されており、事実上IRB審査基準の権原となっているといえる。FWA認証審査ではIRBの独自規定が”the Common Rule”やベルモント・レポートなど踏襲していることや、IRB委員・被験者研究に携わる研究者全員にこの政策の概要や手続きについての教育が徹底されているかなどが調査される。またFWAの有効期間は3年であるため、その更新にはOHRPの再審査が課せられている。このように今日の被験者保護政策は各IRBの独自規定とFWA認証を通じて、研究分野や研究資金の出処を問わずあらゆる被験者研究を対象としているのである。ではその中心的な規定である”the Common Rule”とはどのような規定であるのかを次の章で検討する。

　　3　“the Common Rule”は何を目指しているのか

　　 ”the Common Rule”はHHSの下部組織である国立保健研究所 (National Institute of Health: NIH)が、1981年にベルモント・レポートに基づいて制定された45CFR46規定の一部である　[注9]。45CFR45とはHHSの権限範囲でのみ通用する規定であり、その一部(Subpart A)が1991年にHHSを含む16の政府機関の共通規定として採用されたことを契機に　[注10]　”the Common Rule”という通称となった　[注11]。規定の内容として、対象となる研究と例外となる研究について、用語の定義、研究計画の認証について、IRB委員の構成、迅速審査手続き（expedited review procedure）、IRB審査の基準と手続き、共同研究について、インフォームド・コンセントについて、研究の中止、認証の例外規定などが規定されている。そのうちIRB審査とインフォームド・コンセントについては特に詳細な規定があることから、被験者保護政策においてこの二つの手続きが特に重視されていることが分かる。だがこの”Common Rule”を最も特徴付けているは「連邦政府資金の使途」(46.122)である。なぜならこの細則には「この政策の要求を満たさなかった場合には、被験者研究のために連邦政府資金を用いることは許されない」と記されているためである　[注12]。つまりこの政策は研究資金が政府を財源とするか否かで監督権限が異なるのである。

　　 ここからは”The Common Rule”における重要項目、IRB審査とインフォームド・コンセントについて検討する。まず “The　Common　Rule”の定義する「被験者」とは実験に参加する個人の身体だけではなく、「研究者が調査の対象としている生きた個人のことを指し、かつ実験に参加する個人への干渉や相互のやり取りの中で得た情報、すなわち個人の身元を特定できる情報(identifiable private information)も含む」と記されている　[注13]。さらに研究者が記録を予告していないところでの個人の行動や、当初から出版や発表を意図していない情報についても含まれる。このように「被験者」の概念は、人格や物質的状況だけではなく、行動や言動から得られる情報までも含めた広い概念であることがわかる。なぜならそれは研究結果の公表によって被験者に与えうる二次的な影響も考慮しているためである。次に「研究」(Research)の定義によると「実用化するための試験や評価を含めた体系的調査であり、一般化することができる知識(generalizable knowledge)への貢献が見通されている事」が必要とされている。つまり「研究」とは、ある知識の普遍化に寄与する成果を獲得するうえでの合理的な裏づけという位置付けがなされている。このように政策の対象を示す「被験者」「研究」という概念は広範な定義で示されており、こうした概念が政策の「拡張」を容易にした遠因ではないかと考えられる。

　　 ”the Common rule”にはIRBの役割や審査基準について最低限度遵守されるべき規定が示されている。IRBはこれらの規定を遵守しながら独自の規定を作成し、被験者研究の計画を定期的に審査している。日常的にIRBが処理する任務は膨大である。教員、学生、大学院生などその施設に関連する研究者が被験者研究をする場合にはほぼすべてが審査の対象となる。また一度認証した研究であっても、内容変更の審査や研究が数年にわたる場合には年次報告を提出して再審査を受けなければならない。IRBは計画認証の最終的な決定権を持つと同時に責任も担っている　[注17]。そのほかにもIRBには予期せぬ重大な事態や要求事項に合致していないことが判明した際の認証の取り下げや研究の停止命令、研究計画者や関係する政府機関への報告、関連文書の記録・保存など多岐にわたる任務が課せられている。さらにIRB委員の構成にも詳細な規定がある。その目的は委員の専門知識や社会的立場に「偏り」がない人員配置を求めることで審査の「公平性」を証する意図を覗うことができる　[注18]。

　　 この政策の45CFR46規定にはSubpart A(“the Common Rule”)だけではなく、SubpartB,C,Dという特例が設けられている。その特例「傷つきやすい人々」” vulnerable people ”とは服役囚、胎児、新生児、子供、妊婦などを意味する。たとえば服役囚の立場にあるものは真に自発的で非強制的な決断を下せない可能性があり、そのため追加的な保護が必要であるとことなどが述べられている　[注23]。先述したようにこの政策では被験者の自発的な同意を最重要視していて、その延長上としてこうした人々の自発性には特別な配慮が必要であると見なされているといえる　[注24]。

　　 このように”the Common Rule”はIRBの審査制度を通じて被験者保護を保証している。その手続きとして研究の過程や成果で想定されるリスク・便益を評価すること、「適切」なインフォームド・コンセントによる自発的な同意をとりつけること、「傷つきやすい人々」に対する配慮を行うことが求められているのである。アメリカ被験者保護政策におけるこうした「研究倫理｣の枠組みは6章で取り上げるベルモント・レポートを踏襲している。次章では社会科学系の学術団体がこの規制にどのような反応を示したのかを検討する。

　　 報告書によるとリスク・便益評価、インフォームド・コンセント、迅速審査手続き、IRB委員の構成、IRBへの不服申立ての機会について”the Common Rule”が想定する概念と社会科学研究の実情とのあいだに生じている齟齬を指摘している。そして報告書の最後にはIRB制度・社会科学の研究者・IRB委員それぞれに向けられた「提言」(Recommendations)が付されている。それによると制度自体についてIRBの強力な権限に意義申立てをする機会を設けること、研究機関に主導権を持たせて研究者の権利もまた保護すること、研究計画が「迅速審査」や「審査の例外」に該当するかどうかの判断などIRB審査を今以上に的確かつ迅速に行うこと、そしてIRBが論点としていることを明確にするために研究者に向けた情報の公開を積極的に行うことなどの改善要求が述べられている。社会科学の研究者に向けた提言には学問の自由への危惧という現在の状況を他の研究者と共有して各人が声をあげるべきであること、IRB委員に対しては前例のない被験者研究計画における責任の所在や、社会科学の研究計画が審査免除とする判断を学部当局と話し合うべきだと述べている。最後に大学当局もまた研究計画のデータベース化を進めて、研究者や学生が審査の必要に応じて参照できる仕組みを作ることで現行の制度を社会科学研究に適合する体制作りをすべきだことを要求している。

6.1　被験者としての「傷つきやすい人々」

　　 １つ目の原則は「人格の尊重」”Respect for Persons”である。この原則を実践するためにインフォームド・コンセントが必要であるとされている。これまで見てきたようにこの原則は被験者が自発的合意をするためには「適切」な説明が不可欠であるという理解にもとづいている。２つ目の原則は便益”Beneficence”であり　[注46]、その評価は常にリスクとの比較”Assessment of Risks and Benefits”によってなされるべきだとされている。それを達成するためには研究計画で期待される便益は被験者に与えうるリスクと比較して正当であるのか否かを評価しなければならない。つまり危害が生じる大きさと可能性をリスクとして評価し、便益は可能性に留まるのではなく、期待されることとして評価されるべきである。また、リスク‐便益ともに心理的・物理的・法的・社会的・経済的事柄であるとしている。そのためには計画されている研究に関連する情報を包括的に収集して、機会と責任とを評価しなければならならず、こうした評価は個人,集団,社会の各層に影響を与える可能性があり、その便益の総計によって被験者に与えうるリスクを評価すべきであるとしている。３つ目の原則は正義”Justice”であり、被験者の選出”Selection of Subjects”や負担が公平となるように研究はなされるべきであり、特に「傷つきやすい人々」を被験者とする際には細心の配慮が必要であることが記されている。

　　 これまで見てきたようにベルモント・リポートが想定しているリスク・便益は生物医学研究の人体実験の規制が想定されていた。だが被験者保護政策はこの想定を覆すような事件・事故に直面して、その対応に迫られる過程において２つの「拡張」をしていったのではないかと私は考える。ひとつは政策の対象となる研究の「拡張」であり、もうひとつは概念の「拡張」である。被験者の幸福・健康、一般化することのできる知識の獲得という便益と被験者への物質的・精神的・肉体的危害という想定に対照的な論点が付け加えられた。つまり被験者・研究者双方の金銭的利益・補償・社会的名声などの利益“interest（ｓ）”と、訴訟・告発・社会的非難・政府機関からの制裁など研究者や研究機関もリスクの当事者となりうるという利害関係”Conflict of interest(s)”である。これから取り上げるいくつかの出来事は被験者の便益と研究のリスクという新たな論点を描き出している。

　　 ムーア‐カリフォルニア大学裁判は1984年にカリフォルニア大学で治療を受けていた患者Mooreが提訴した裁判である。同大学は患者の血液細胞を使用して白血病の治療法の開発に成功して莫大な利益を得ていた。その当事者であったムーアは、大学の研究成果と利益にはムーア本人の血液細胞が不可欠だったのであり、その精神的・金銭的な損害を補償すること求めたのである。1990年に裁判は結審し、原告の主張は退けられた。しかし裁判所が示した判断のなかで、研究者は金銭的な利益を得る立場にあり、意志もまた研究者に含まれることが示された。つまりこの判断は「被験者」”Human Subjects”の概念が身体そのものを指すだけに留まらず、被験者から摘出された血液細胞や細胞の情報も含む包括的な概念であることが法的に認められたのである。また1991年に16の政府機関が被験者保護を目的とした共通規定として“the Common Rule”を採用すると、IRBの審査対象は採択した政府機関が関与する被験者研究へと大きく拡張された　[注49]。

　　 ふたつの被験者死亡事件によって、現行のIRB審査制度が被験者の保護という目的を果たしていないことが明らかとなった。だが政府機関・学術組織・議会はIRB制度そのものの立て直しが必要であると考えていたものの、その改善策は必ずしも一致していたわけではなかった。この章では政府の諮問機関である国家生命倫理諮問委員会(the National Bioethics Advisory Commission: NBAC)と国家被験者保護政策諮問委員会(the National human Research Protections Advisory Committee: NHRPAC)、非政府組織であり7つの学術団体が設立した新組織被験者保護計画協会(the Association for the Accreditation of Human Research Protection Programs: AAHRPP 　[注55])を中心として被験者保護政策の動向を検討する。ただしこれらの機関はそれぞれの活動方針を掲げていたが、IRB審査制度の見直しを独自に進めてきたのではない。政府の委員会であるNHRPACには非政府組織である学術団体の代表を委員が迎えられ、同じく非政府組織のAAHRPPは退役軍人省(department of Veterans Affairs: VA)と共同でIRB審査を行っている事例がある。今日の被験者保護政策は政府諮問委員会の答申、学術団体による独自の提言と規定、各IRBの独自規定の三者が相互に関連しながら成り立っていると私は考えている。ただし政府機関と非政府組織のあいだには協調関係が保たれてきたというよりは、政府諮問機関の答申に対して社会科学系の学術団体が異議を唱え続けてきたと表現するほうが適切かもしれない。こうした経緯をこの報告の表題に取り上げた“Fault Line” （分断線、断層線）という概念に集約できる。この言葉は人体実験の規制から始まった現行の被験者保護政策を社会科学研究にそのままの手法で適用すること、生物医学の文脈で作られた規定や理論を単純に社会科学の被験者研究の現場にあてはめようとすることの不適切さを象徴している　[注56]。この章ではこの言葉をキー・ワードとして、2000年以降の社会科学研究における被験者保護政策の経過をたどる。

　　 こうした政府機関の動きのほかに2000年から2001年にかけてIRB制度を見なおす提案や報告は連鎖的に打ち出された。2000年にHHSの医学研究に関する諮問機関IOM(Institute of Medicine)と研究者による学術組織PRIM＆R(Public Responsibility in Medicine and Research)は共同で被験者が関与する研究の審査計画の草案を発表した。また同年6月には、アメリカ大学協会(the Association of American Universities: AAU)が先進的な大学経営を参考に監督権限を強化することによって、大学内での研究における被験者保護をより推進する提案を発表した　[注59]。そのなかでIRB委員と医学研究者全員に研修を課すこと、あらゆる被験者研究に自発的な認証をもとめること、大学の説明責任を明確にするための情報公開などについて例示されている　[注60]。また同年同月Diana Degotte ,Henry Waxman（ともに民主党下院議員）,John Mica（共和党下院議員）らはIRB制度に対する批判の集大成といいうる「被験者保護法案2000」(the Human Research Subjects’ Protections Act of 2000,H.R.4605)を議会に提出している。法案では研究資金の出所を問わずthe Common Ruleを医療分野の被験者研究に適用すること、そのためにはインフォームド・コンセントの文書化を徹底させること、詳細な情報の提供、IRB制度予算の拡充、IRB委員と研究者への教育を求めることが法案に盛り込まれた　[注61]。この法案に全面的な支持を表明した医科大学協会(the Association of American Medical Colleges: AAMC)は2001年1月に”the Common Rule”をあらゆる被験者研究に対象を広げることをNBACに提言している。また同協会の専門委員会は医学研究における金銭的利害についてAAUの提言と同様に金銭的利益を伴う研究者は実権に加わるべきではなく、各研究機関は研究者が金銭的利害に加わる可能性をあらゆる角度から明らかにする必要があると述べている。

　　 NBACは2001年1月に最終報告書の草案を取りまとめた。同委員会はこの草案ではじめて社会科学研究における被験者保護を取り上げている　[注71]。同月、アメリカ社会学会(American Sociological Association:　ASA)会長Felice J. LevineはNBAC委員長Harolf Shapiroにこの草案に対する意見書を送っている　[注72]。そこでLevineは被験者保護政策が生物医学研究を想定した規制であるのにもかかわらず、なぜ社会科学研究に適用するのか、またどのように制度を改編するのかについての説明を求めている。そしてこの意見書のなかで非政府組織である学術団体の提言や認証制度に政府機関は積極的に耳を傾けるべきだと主張し、この草案で提案されている独立性の高い新組織(仮称the National Office for Human Research Oversight)の創設によって、政策がより中央集権化していくことを危惧している。草案は予定通り同年8月に最終報告書「ヒト被験者が関与する研究での倫理と指針の諸問題」(“Ethical and Policy Issues in Research involving Human Participants”)という表題で公表され、NBACは10月に解散した。

　　 2001年10月、NBACは任期満了で解散したあと、ブッシュ大統領は翌月にホワイトハウス生命倫理委員会(White house Council on Bioethics)を設置した。この委員会の使命はNBACの議論を引き継いで、大統領（ホワイトハウス）に胚や肝細胞研究の監査、生殖、クローン、遺伝技術、神経科学など生命科学の倫理的な問題に関する答申をすることであった。一方、被験者保護政策や”the Common Rule”の議論は事実上NHRPACに継承された　[注74]。この委員会は2000年6月にHHSの下部組織として設置され、HHS長官Donna Shalala, 次官(Assistant Secretary of Health, ASH)、OHRPほか被験者保護に関係する多数の政府機関の諮問機関だった　[注75]。委員会には子供、遺伝、社会・行動科学、自己決定が困難な者(decisionally impaired)、インフォームド・コンセント、利害対立について審議するいくつかの作業グループがあり、そこで議論された内容をNHRPACの全体会議で最終的に検討され提言がまとめられた。また全委員12名のうち大半は被験者保護政策に関連する政府機関の代表者であり、社会･行動科学分野を代表する委員は文化人類学者のJennie R.Joeのみであった。社会科学系の学術団体を代表する社会科学協会連合（the Consortium of Social Science Associations: COSSA)はこの委員の構成を問題視して、HHS長官に対し社会科学系の委員を増やすように強く要請した　[注76]。2001年１月にNHRPACは新たに任命した委員5名うち、ASA会長Felice J.Levineを迎え入れた　[注77]。Levineは前年12月にNHRPACで社会・行動科学研究者からの現状認識について報告していた。彼女は今こそ被験者の保護と倫理と研究の質が問われており、委員会が社会科学研究の審査と認証における指針と現状との溝を埋めるためにIRB制度そのものを見なおす方向に目を向けるべきことに言及した。

　　 だが2002年8月にブッシュ政権下のHHS長官Thompson はNHRPAC の10月に予定されていた定例会を中止するとともに、同委員会の任期満了前に解散を命じたことは「青天の霹靂」だった　[注81]。Edward KennedyとHillary Clinton（ともに民主党上院）はこの決定を不服として、HHS長官に宛てて解散の取消しを求める嘆願書を提出したものの、この決定が覆ることはなかった。SBSはその後もNIHの社会科学行動科学研究局(Office of Behavioral and Social Sciences Research)の支援を受け、またAAHRPPやFOHRP(the Federal Office of Human Research Protections)などの機関と連携して終日研修など独自の活動を続けている。同年10月、HHSはNHRPAC に代わる政府の諮問機関として11名の委員からなる「被験者保護に関する諮問委員会」(the Secretary’s Advisory Committee on Human Subject Protections: SACHRP)を設置した　[注82]。この委員会はNHRPACの問題提起を踏襲して新生児を含む児童・囚人・自己決定の困難な者・妊婦・受精胚・胎児・海外研究での個人と集団・身元を特定できる情報・研究者の利害などについて審議を続けている。

　　 1990年代後半から被験者保護の関心が高まるにつれて、独自の規定を定めてきた7学術団体は2001年4月に被験者保護計画認証協会(the Association for the Accreditation of Human Research Protection Programs: AAHRPP)を共同で発足した　[注83]。この組織は発足当初からCOSSA(社会科学学術団体連合,the Consortium of Social Science Associations) が参加を表明していたことによって、社会科学研究に適応できる広範で柔軟な提案が可能になったといわれている　[注84]。2001年2月にはAAHRPPは研究者の側から広範囲な研究分野で適用することを想定した独自の規定を提案し、OHRPがFWA認証を行うのと同様に各IRBにAAHRPPの認証(AAHRPP^®)を提案している　[注85]。設立団体のひとつであるPRIM&R(「医療・研究における公的責任」社：Public Responsibility in Medicine and Research, Inc)はこの認証について「この認証が目的としていることは、このプログラムによって当該分野における最善の実践”best practices”が取り入れられることを勧めてくれるような行動基準を開発していくこと、そしてこれらの基準に見合ったプログラムを承認することによって被験者の保護を促進することにあるのです」と紹介している　[注86]。つまりこの非政府機関が主催する認証制度は、政府の規定を遵守することによって被験者の権利および福祉の向上を達成することができるというこれまでの認識を改める。そして実際に起きている問題を自発的な自己規制“Voluntary Self-Regulation”との双方向的な見直しのなかでIRB審査や教育プログラムを位置づけることを目指しているのである　[注87]。2002年10月には退役軍人省(department of Veterans Affairs: VA)がIRB審査をAAHRPPとともに行うことを発表した。VAは従来NCQA(the national Committee for Quality Assurance)のIRBを認証機関としていたが、これ以後VA、NCQA、AAHRPPが合同でVAに申請されたIRB審査を担当することになったのである。また米国疾病対策および予防センター(American Centers for Disease Control and Prevention: CDC)はAAHRPP認証をCDCの認証制度として認定することを発表している。このようにAAHRPP設立の背景には研究の「倫理」についてこれまでの研究分野ごとの慣例を見なおし、また被験者保護に関する政府の規定を無批判に追従することも抗した学術団体の独自の姿勢を見ることができる。そして非政府であるAAHRPPの認証は政府機関のIRBや非政府の研究機関に認められている　[注88]。

　　 前の章で見てきたようにFelice J.Levineは被験者保護を社会科学の研究の文脈で考えなおすべきだという主張を”Fault Line”と表現した。そしてこの言葉には「論理の飛躍」に対する強い憤りが込められていたのではないかと私は考える。社会科学の学術団体は生物医学と社会科学の研究を同一の基準で規制すること、また被験者の保護という理念を実際の研究現場にそのまま適用することの不適切さを主張してきた。ペンシルヴェニア歴史・博物館委員会(Pennsylvania Historical and Museum Commission)委員であったLinda Shopesもまた生物医学研究を想定した規制や解釈を社会科学の被験者研究に重ね合わせることによって、社会科学研究は致命的な干渉となりかねないことを主張している　[注91]。

　　　　このように人体実験の規制から始まった被験者保護政策は、政府主導による規制を遵守することで被験者保護の達成とするのではなく、社会科学系学術団体によって独自の基準作りが模索されているのである。そして”Fault Line”という批判は一義的な規制ではなく、審査基準そのものの改編の可能性を含めた自発的な研究の「倫理」を模索し始めている。

注1　原題は"Protecting Human Beings-Institutional Review Boards and Social Science Research" 原文はAAUP(http://www.aaup.org/statements/Redbook/repirb.htm)または(http://www.cddc.vt.edu/aoir/ethics/public/IRBSS.pdf)で閲覧できる。この報告書は1999年11月と2000年5月に議論された内容が収められている。そのためこの報告書が想定している45CFR46（後述）は2001年改訂版（現行）の一つ前の版(1991年改訂版)であると想定される。しかしこの報告書の主張は現行の規定を含めたこの政策全体に対する問題提起として十分に有効であると筆者は考え、この報告で取り上げることとした。 報告書を代表した6学術団体は下記の通り。
AAA(アメリカ人類学会,the American Anthropological Association)/ AHA (アメリカ歴史学会,the American Historical Association)/ APSA (アメリカ政策科学,the American Political Science Association)/ ASA (アメリカ社会学, the American Sociological Association)/ OHA (口承歴史学,the Oral History Association)/ OAH (アメリカ歴史家協会,the Organization of American Historians)/ (http://www.oah.org/pubs/nl/2001aug/newsprof.html)参照。

注2　"Human Subjects"は「被験者」と訳されることが一般的である。しかし後述するように、政策で使われる場合には被験者の身体だけではなく、被験者の意識無意識にかかわらず所有している情報（被験者を特定できる情報も含む）という多義的な概念として規定されている。

注3　 審査を免除される研究についても規定がある。また政府の規定を厳密に適用するならば、政府規定の対象となる研究とは政府機関による研究資金の支援を受けている被験者研究および食品薬品を取り扱う研究のみである。しかし一般にはIRBが独自に定める規定において、研究資金の出所を問わずにあらゆる被験者研究が審査対象とされている場合が大半である。この点については後述する。

注4　 立岩 真也(arsvi.com患者の権利／インフォームド・コンセント)(http://www.arsvi.com/0p/r.htm)
土屋 貴志(http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/~tsuchiya/index.html)
星野　一正「臨床試験における倫理の歴史的考察」（時の法令1676号、69　73，2002　民主化の法理＝医療の場合90）
松原 洋子「生物医学と社会」（「科学技術社会論研究　第1号」科学技術社会論学会2002　所収）

注5　厚生省(審議会議事録)(http://www.mhlw.go.jp/sNIHgi/index.html#idou) (http://www.mhlw.go.jp/sNIHgi/other.html#kousei)
厚生科学審議会科学技術部会(http://www.mhlw.go.jp/sNIHgi/2002/07/s0724-2.html)
ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針（ヒトゲノム・遺伝子解析に関する倫理審査委員会登録一覧）(http://www2.ncc.go.jp/elsi/html/rinri_committee.htm)

注6　 アメリカ被験者保護政策には56 FR(Federal Regulation) 28003という通し番号がつけられている。

注7　「21 CFR 50 および 56」は生物医学系、食品系研究では重要な被験者保護政策の規定であるが、この報告書では社会科学系の被験者保護政策に焦点を当てるため当該規定については詳しく触れない。注釈47参照。
「21 CFR 50 および 56」はそれぞれ以下のサイトなどで閲覧できる。 21 CFR 50(http://www.va.gov/orca/docs/compendium_1/Files/21CFR50.htm)/ 21 CFR 56( http://www.va.gov/orca/docs/compendium_1/Files/21CFR56.htm)
　またFDAには臨床試験実施に関する基準（GCP）という研究者やその支援者や団体の規定集がある。GCPを普及させようという経緯はヨーロッパ各国や日本でも起こりつつあり、日米欧医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議（ICH）と呼ばれている。

注8　DHHS(http://ohrp.osophs.dhhs.gov/humansubjects/assurance/filasurt.htm)を参照。

注9　 この規定は1981年に制定されてから1983, 1989, 1991年に改訂されており、現在は2001年版が最新の規定である。この章での"the Common Rule"は2001年改訂（現行）の規定を参考にしている。University of Wisconsin (http://www.uwgb.edu/irb/current_regulations.htm)を参照した。
また45CFR46の本文は多数のサイトで閲覧することができる。 OHRP(Office on Human Research Protection) (http://ohrp.osophs.dhhs.gov/humansubjects/guidance/45cfr46.htm)/ Harvard Univ.( http://www.fas.harvard.edu/%7Eresearch/45CFR46.html)/ The University of Michigan Health System(http://www.med.umich.edu/irbmed/FederalDocuments/hhs/HHS45CFR46.html)

注10　 45CFR46を共通規定として採用した16の連邦政府機関は下記の通りである。
U.S. Agency for International Development/ Consumer Product Safety Commission/ U.S. Department of Agriculture/ U.S. Department of Commerce/ U.S. Department of Defense/ U.S. Department of Education/ U.S. Department of Energy/ U.S. Department of Health and Human Services/ Centers for Disease Control/ Food and Drug Administration/ Office of the Secretary/ National Institutes of Health/ U.S. Department of Housing and Urban Development/ U.S. Department of Justice/ U.S. Department of Veterans Affairs/ U.S. Department of Transportation/ Environmental Protection Agency/ National Aeronautics and Space Administration/ National Science Foundation/

注11　 45CFR46のSubpart Aは最も中心となる規定であるが、そのほかに特定の被験者応じてSubpartB,C,Dがある。SbpartB,C,Dはそれぞれ胎児(fetuses)と新生児(neonates)と妊婦(pregnant women)、服役囚(prisoners)、子供(Children)と親子または子供とその保護者(their parents or guardians)が被験者となる場合の規定である。これらの規定で定められている人を含めて被験者保護政策では被験者の自己決定が容易に行えないと忖度される人々を「傷つきやすい」人々(vulnerable people)として規定して特別な配慮をするよう明記している。
また　"the Common Rule"はSubpart Aのみを共通規定としているので、特別にほかのSubpartを採択していない限りSubpart B,C,Dを遵守する義務はない。ただしSubpart Aの中にも「傷つきやすい」人々に対する配慮義務が明記されている。

注12　 (45CFR46.122)より抜粋。(Use of Federal funds)Federal funds administered by a Department or Agency may not be expended for research Involving human subjects unless the requirements of this policy have been satisfied. (45CFR46.122)より抜粋。

注13　(45CFR46.102)より抜粋。Human subject means a living individual about whom an investigator (whether professional or student) conducting research obtains
(1) Data through intervention or interaction with the individual, or
(2) Identifiable private information.

注14　そのほかにも連邦政府機関の長が最終的な判断を下す権限を持つことや、調査・研究が実験の内容が州法その他の法律に違反しないこと、また海外で調査・研究についてなどの例外規定がある。

注15　45CFR46.111（2）参照

注16　 NSFによるFrequently Asked Question(http://www.nsf.gov/bfa/dga/policy/hsfaqs.htm)参照

注17　 45CFR46.110参照

注18　 しかしこの人員配置「偏り」のなさが「偏り」だとして後述するAAAUのリポートでは問題視される（後述のAAUP報告書を参照。）。規定によると IRBの構成員は5人以上であること。社会的性別(gender)、人種、社会的履歴などに偏りがないよう考慮すること。審査するのに十分な見識を持ち、被験者の権利と福祉を増進させる分別を持っていること。科学を専攻する者と専攻しない者がそれぞれ最低1名いること。親族を含め研究機関の部外者が最低1名いること。審査する計画に利害のあるものを除くことなどが定められている（45CFR46.107を参照）。

注19　社会科学系の学術団体はフィールドワークやインタヴュー調査が被験者へのリスクが限りなく少ないことだとして、これらの研究計画を迅速審査手続きの対象として要求している。

注20　OHRP(http://ohrp.osophs.dhhs.gov/humansubjects/guidance/expedited98.htm）/ Stanford　Univ.(http://www.stanford.edu/dept/DoR/hs/admin/index.html)/ EML(Environmental measurements Laboratory)(http://www.eml.doe.gov/hsrd/)/ NIH(http://grants1.nih.gov/grants/policy/hsrea/hsrea.htm#queries)
Wisconsin-Madison Univ.(http://www.rsp.wisc.edu/html/queries.html)参照 また各研究機関のウェブ上での情報発信については第５章参照。

注21　 規定にはIRBが妥当なインフォームド・コンセントであると判断する基準として、被験者へのリスクが最小限にとどめられているか、被験者の権利と福祉に反しないか、参加後に被験者には適宜重要な情報が提供されるのかなどが挙げられている。このほかにもインフォームド・コンセントが連邦法、州法、地方の法律に反するものでないこと。連邦法、州法、地方の法律定める範囲内で内科医に許されている応急処置の権限を妨げるものではないこと。別の項目には州政府や地方政府が公共的な利益を目的とするために許可したインフォームド・コンセントについての例外規定がある。46.116参照

注22　45CFR46.120を参照。例外的事例として、インフォームド・コンセントの文書化手続きを踏むことによって信頼関係が損なわれる可能性がある場合、また被験者にほとんどリスクが伴わない実験の場合や、文書による同意が調査の文脈である場合などが挙げられている。

注23　45CFR46.302 Purpose　参照

注24　被験者保護政策の背景となっている人体実験では「傷つきやすい人々」が非自発的に被験者とされてきた。こうした経緯については第６章参照。

注25　注釈１参照

注26　NIH(http://cme.cancer.gov/c01/)/ Stanford Univ.(http://humansubjects.stanford.edu/education/)/ Florida Univ.(http://irb.ufl.edu/education/needsassess.htm)/ Nebraska Univ.(http://www.unmc.edu/irb/education/)/ Yale Univ.(http://info.med.yale.edu/irbtraining/)/ Indiana Univ(http://www.iupui.edu/~resgrad/Human%20Subjects/HumanSubjectsCourse.html/ Washington Univ.(http://www.washington.edu/research/gci/)/ California Univ()http://www.rgs.uci.edu/researchprotections/irb/trainingandeducation.htm)/ Danya International, Inc.(http://www.theresearchassistant.com/research/intro.asp)/ University of Rochester Medical Center(http://www.urmc.rochester.edu/datalab/datareq.htm)/ DOE(Department of Energy) (http://www.er.doe.gov/production/ober/humsubj/index.html)/ Johns Hopkins University School of Medicine (http://www.hopkinscme.org/cme/events/core.html)など参照。

注27　CITI(http://jaguar.ir.miami.edu/~citireg/citi_information.html)参照

注28　NIH (http://grants1.nih.gov/grants/policy/hsrea/hsrea.htm)

注29　この章の歴史的経緯については以下のサイトを参考にしている。このほかこの章の別の注釈でのリンク先を参照した。
the American Association for the Advancement of Science（AAAS）(http://www.aaas.org/spp/cstc/briefs/humsub/humsublinks.shtml)/ Alliancefor Human Research Protection (http://www.researchprotection.org/history/chronology.html)/ American Political Science Association (APSA)(http://www.apsanet.org/PS/june01/hauck.cfm)/ American Sociological Association (ASA net)(http://www.asanet.org/media/report0201.html)/ Centers for Disease Control and Prevention (http://www.cdc.gov/nchstp/od/tuskegee/time.htm)/ Delaware Univ.(http://www.udel.edu/OVPR/humans/history.html)/ Eastern Michigan Univ.(http://www.rcr.emich.edu/module1/a_7part1.html)/ Emory Univ.(http://www.emory.edu/ACAD_EXCHANGE/2002/aprmay/humsubj.html)/ Indiana Univ.(http://www.iupui.edu/~resgrad/Human%20Subjects/ethics3A.html)/ Minnesota Univ.(http://www.research.umn.edu/consent/mod1med/mod1sec4.html)/ Nebraska Univ.(http://www.unmc.edu/irb/source_documents/faqoprr.htm)/ Public Broadcasting Service (PBS)(http://www.pbs.org/newshour/bb/health/jan-june00/gene_therapy_2-2.html)/ Sherman, Silverstein, Kohl, Rose & Podolsky(law Office)(http://www.sskrplaw.com/bioethics/chronology.html)/ Stanford Univ.(http://www.stanford.edu/dept/DoR/hs/History/his01.html)(http://humansubjects.stanford.edu/manual/chapters/ch2_1a_ethics.html)/ The National Coalition for PKU & Allied Disorders（http://www.pku-allieddisorders.org/research2.htm/ WasNIHgton Univ.(http://courses.wasNIHgton.edu/pabio550/Tuskegee%20Study.htm)

注30　Stanford Univ.(http://humansubjects.stanford.edu/manual/chapters/ch1_2a_intro.html)参照。

注31　 (http://www.udel.edu/OVPR/humans/history.html)参照

注32　政府が被験者保護政策を拡張していく過程は(http://pw2.netcom.com/~alalli/BillSite_analysis/cr_chaange/html)参照

注33　ニュルンベルク裁判については(http://law.umkc.edu/faculty/projects/ftrials/) (http://www.jlaw.com/Articles/NaziMedEx.html)参照

注34　 1948年に起草されたとする資料もある。 ニュルンベルク・コード以前から、記録に残されているだけでもおびただしい数の人体実験が行われてきた。「人道上の罪」ということばで人体実験が「国際的」な問題に取り上げられたのは、戦争の勝者が敗者を裁く過程で起きたことに注目すべきではなかろうか。またナチスと日本軍の人体実験と経緯については土屋 貴志・インターネット講座 「人体実験の倫理学」(http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/~tsuchiya/index.html)を参照した。

注35　 そのほかに十分に成果の期待できる結果に基づいた研究計画が立てられるべきであり、研究をおこなううえでの義務と被験者の福祉を保護するための研究者の責任について言及されている。第２条以下の概要は次の通り。２．社会の善にとって有益な結果がもたらされる実験・調査。３、人体実験に先立って動物実験や前提知識に基づくこと。４．精神的、肉体的への不必要な加害の禁止。５．致命的な実験の禁止。６．人道的重要性を逸脱した実験の禁止。７．被験者保護のための十分な事前準備。８．高度の技術と配慮の必要性。９．被験者の精神的、肉体的状況を理由として被験者が実験中止を決められること。10．どの段階においても実験の中止ができる事前準備。

注36　 だがこのコードの文章では"Informed consent"や"Ethic(s)"という語は用いられていない

注37　 American Anthropological Association(http://www.aaanet.org/committees/ethics/ethics.htm)/ American Association for Public Opinion Research (http://www.aapor.org/default.asp?page=survey_methods/standards_and_best_practices)/ American Historical Association.(http://www.theaha.org/PUBS/STANDARD.htm)/ American Sociological Association (http://www.asanet.org/members/ecoderev.html)/ National Association of Social Workers(http://www.socialworkers.org/pubs/code/default.asp)/ Oral History Association (http://omega.dickinson.edu/organizations/oha/pub_eg.html)/ Society for ResearcNIH Child Development (http://www.srcd.org/about.html#standards)
またSociety of Professional Journalists (http://www.spj.org/ethics.asp)にはフィールドワークやインタヴューについての詳細な指針が掲載されている。 同様にAmerican Psychological Association(http://www.apa.org/ethics/)にも動物実験や電話、インターネットを通じたインタヴューについての指針が掲載されている。

注38　 キャメロット計画とはアメリカ陸軍がヨーロッパ諸国およびアジアアフリカ31カ国で革命や内乱などが起こる可能性と政府がそれを鎮圧する力を持つかどうかの分析を予測する計画であった。ベトナム戦争における内乱の分析には多くの社会学者が動員された。この計画が発覚するとアメリカ人類学会など社会科学系の学術団体はこれを批判し計画は頓挫した。
池田　光穂(「健康の開発」史――医療支援と応用人類学)(http://www.let.kumamoto-u.ac.jp/cs/cu/dhealth.html)
ラテンアメリカの政治(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/chronology/chile/chile2.htm)を参照した。した。
Harvard Univ.(http://www.hsph.harvard.edu/bioethics/guidelines/ethical.html)を参照した。
また1968年にはOHA(Oral History Association)がインタヴューにおける被験者への倫理的配慮を含めた指針を定めている。

注39　 サリドマイド薬(thalidomide)は本来てんかん患者の抗痙攣薬として製造された薬である。これを服用した妊婦から生まれた幼児の手足が奇形化する症状が発覚し、問題化した。アメリカでは約12,000人の幼児に障害が表れたといわれている。 佐藤賛治d-inf.org (http://d-inf.org/drug/yakugai3.html) .Indiana Univ. (http://www.iupui.edu/~resgrad/Human%20Subjects/ethics3A.html)を参照した。

注40　 ヘルシンキ宣言はその後1983,1989,1996,2000,2002年に改訂されて現在に至っている。この宣言採択国の生物医学の研究では、被験者の権利と福祉が保護されているかについて第三者委員会の認証、事前の動物実験、十分なインフォームドコンセント、非営利目的などが義務付けられた。
原文を下記サイトほか多数で閲覧することができる。(http://www.windsor.igs.net/%7Enhodgins/helsinki.html)/ WMA(Medical Associations)(http://www.wma.net/e/policy/b3.htm)/ CIRP(The Circumcision Information and Resource Pages)(http://www.cirp.org/library/ethics/helsinki/)
またヘルシンキ宣言は今日でも生物医学研究の指針として広く参照されている。1993年には国際医科学機構評議会（CIOMS）によって被験者を伴う生物実験の国際的倫理指針が発表された。これはヘルシンキ宣言を受けて発展途上国での被験者を伴う調査・研究についての倫理指針である。正式名称International Ethical Guidelines for Biomedical Research　involving Human Subjects (http://www.cioms.ch/frame_1993_texts_of_guidelines.htm)参照。

注41　SAN DIEGO STATE UNIV.(http://gra.sdsu.edu/cphs/tutorial/m2s2.htm)を参照した。

注42　人体実験の歴史について(http://www.dc.peachnet.edu/~shale/humanities/composition/assignments/experiment.html)/ Japan-lifeissues (http://www.japan-lifeissues.net/writers/kee/kee_01cloningandchurch-ja.html)/ CCD(http://www.cdc.gov/nchstp/od/tuskegee/time.htm)などを参照した。

注43　原文はOHRP(http://CCD(http://www.cdc.gov/nchstp/od/tuskegee/time.htm)ohrp.osophs.dhhs.gov/humansubjects/guidance/belmont.htm)などで閲覧することができる。また報告書についての議論はスミソニアン・ベルモント・カンファレンス・センターで行われたためベルモント・レポートと命名された。
ベルモント・レポートの構成

Ethical Principles and Guidelines for ResearcNIHvolving Human Subjects

Boundaries between Practice and Research（調査と実践（治療）とのあいだの線引き）

Basic Ethical Principles（倫理の基本原則）
1.Respect for Persons（人格の尊重）
2.Beneficence（便益・慈悲？）
3.Justice（正義）

Applications（応用）

Informed Consent（説明を受けた上での同意）

Assessment of Risk and Benefits（リスクと便益の評価）

Selection of Subjects（被験者の選出）

注44　the National Commission for the Protection of Human Subjects of Biomedical and Behavioral Researchは1974 年から1978年までの期間の定められた委員会だった。

注45　 ベルモント・レポートと45CFR46との関連については、NSFによるFrequently Asked Questions(FAQ)を参照した。 (http://www.nsf.gov/bfa/dga/policy/hsfaqs.htm)。

注46　"Beneficence"の一般的な訳語は「善行　恩恵　慈善　施し物」などとされている。だが内容から照らしてみると最小のリスクから最大限の便益(benefit)を得る総合的な便益を評価しているため、"benefit"の名詞形としてそのまま「便益」とした。

注47　それと同時にインフォームド・コンセントの免除規定もまた作られている。

注48　Stanford Univ.のページを参照した。(http://humansubjects.stanford.edu/manual/chapters/ch2_2c_ethics.html)

注49　またこの年(1991年)にはFDA (食品・医薬品局：the Food and Drug Administration)によって"the Common Rule"とは独立した規定である「21 CFR 50 and 21 CFR 56」が制定された。これは薬品、生物製剤、それらに関連する装置を扱う被験者研究に適用される規定である。注釈7参照。 45CFR46との違いは１．調査する人がIRBを通さずにFDAに直接認証を受けること、２．IRBの規定よりもFDAの規定が厳格であること。インフォームド・コンセントに該当する調査の内容、手続きに要求される内容や手順の相違、３．深刻で継続的な遵守違反は刑事罰の対象となること。FDAがIRBや調査者を直接取調べできることなどがある。 また1994年にはFDA認可したヒト遺伝子組替え実験の報告とインフォームド・コンセントの義務が免除されている。

注50　ABCNEWSCOM(http://abcnews.go.com/sections/living/DailyNews/duke_humantests990512.html)/ wasnihgtonpost.com (http://www.wasNIHgtonpost.com/wp-srv/national/daily/may99/duke12.htm) 参照。

注51　この事件の経緯については以下のサイトを参照した。 Public Broadcasting Service (PBS).(http://www.pbs.org/newshour/bb/health/jan-june00/gene_therapy_2-2.html)

注52　2001年にはPublic Health Security and Biothrrorism Response Act of 2001が制定されている。それによるとHHSは新薬および生体に関する薬の製造を認める手順を法制化することが記されている。

注53　 Emory　Univ.( http://www.emory.edu/EMORY_REPORT/erarchive/2001/August/erAug.6/8_06_01research.html)/ FDA(http://www.fda.gov/fdac/features/2001/501_john.html)

注54　 AAAS(http://www.aaas.org/spp/cstc/briefs/humsub/) Emory Univ..(http://www.emory.edu/ACAD_EXCHANGE/2002/aprmay/humsubj.html) 参照

注55　 the Association for the Accreditation of Human Research Protection Programs, Inc.(http://www.aahrpp.org/index.html)

注56　 ４章のAAUPの報告書参照。

注57　この事件の発覚以前からIRB審査制度の機能不全は指摘されていた。1996年には会計検査院(The General Accounting Office :GAO: http://www.gao.gov/)は研究者の自己承認に依拠している制度を問題視するとともに、被験者を伴う研究に警鐘を鳴らしつづける必要性を指摘している。また1998年にはHHS査察官　(The DHHS Inspector General,IG)は4つの報告書をまとめている。そのなかではIRBへの負担が過剰であり、一見にかける時間が少なく、専門性も乏しいことが述べられている。 (http://pw2.netcom.com/~alalli/BillSite_Documents/Sum_Feform_IRB_0698.html)

注58　 (http://pw1.netcom.com/~alalli/BillSite_Documents/OHRP.html) OHRP(http://ohrp.osophs.dhhs.gov/) AAAS（http://www.aaas.org/spp/cstc/briefs/humsub/）参照

注59　しかしその草案は社会科学系の学術団体から"Common Rule"を社会科学・行動科学研究にまで単純に拡張したものであり、実情とかけ離れているとして批判を受けた。７

注60　AAUは2001年10月にも金銭的利害に関する報告書を発表している。そこでは個人(the individual investigator)と研究機関(the institution)の利益のレベルを区別して考えるべきであること。また大学には学内のあらゆる研究での金銭的利害を管理し,公開することが求められた。つまり研究によって得た金銭的利益は大学の承認を必要とする制度を求める提言がなされた。

注61　Washington Fox(http://www.washingtonfax.com/samples/2000/20000614a.html)/ AAMC(http://www.aamc.org/newsroom/pressrel/2000/000608.htm)

注62　 (http://www.pku-allieddisorders.org/research2.htm) Washingtonfax.com(http://www.washingtonfax.com/samples/2000/20000614a.html) 参照

注63　 各研究機関のIRBサイトを参照。例えば Eastern Michigan Univ.(http://www.rcr.emich.edu/index.html) NIH(http://www.grants.nih.gov/grants/guide/notice-files/NOT-OD-00-039.html)

注64　 (http://alpha.ddm.uci.edu/zotmail/archive/2002/20020124101.html)

注65　OLPA(http://olpa.od.nih.gov/legislation/107/pendinglegislation/humansubjects.asp)

注66　 the National Bioethics Advisory Commission (http://www.georgetown.edu/research/nrcbl/nbac/)

注67　NBACの前身となる諮問委員会は1978年に設立されている。

注68　NBACが発表した報告書は (http://www.georgetown.edu/research/nrcbl/nbac/pubs.html)などを参照。

注69　「ヒト生態物質を含む研究‐その倫理的諸問題と政策指針」("Research Involving Human Biological Materials: Ethical Issues and Policy Guidance")と「ヒト肝細胞研究における倫理的諸問題」("Ethical Issues in Human Stem Cell Research")注3参照。

注70　「発展途上国で行われる治療実験(臨床実験)での倫理と指針についての諸問題」("Ethical and Policy Issues in International Research: Clinical Trials in Developing Countries")

注71　それまでの報告書では「社会の関心(Social concern)」「社会的価値(Social Value)」という言葉で社会を基底することはあったが、社会科学(Social Science)という言葉はほとんど確認できない。 NBAC（http://www.georgetown.edu/research/nrcbl/nbac/pubs.html）参照

注72　ASAnet(http://www.asanet.org/media/report0201.html)

注73　 括弧内はそれぞれの政策の制定年度。
また言及されている政策の例として、オーストラリアのHRECs (Human Research Ethics Committees)制度とデンマークのREC(The Danish Research Ethics Committee )制度に注目している。HRECsは倫理的観点による自発的な審査制度で1982年から実施されていたものであった。この制度は1992年にNHMRC(the National Health and Medical Research Council) 法制定にともなって審査が義務化されているが、そのなかでは審査会では各分野の専門家を均質に構成すること、そして社会科学研究を含むあらゆる分野の被験者研究が審査の対象とされている。またRECは1992年に法制化された制度であるが、その前身は1970年代にさかのぼる。デンマークの医学・病院所有者・医学研究の各委員会が申し合わせをして、1980年代から実質的に機能し始めたREC審査制度であった。1996年の制度改訂によって生物医学研究において過去に患者だったものも含むあらゆる患者に関する研究にREC審査の対象が広げられている。

注74　NBACや「ホワイトハウス生命倫理委員会」が大統領の諮問機関であるのに対してNHRPACはHHSの諮問機関である。

注75　 NHRPAC (http://ohrp.osophs.dhhs.gov/nhrpac/nhrpac.htm) AERA.net(http://www.aera.net/humansubjects/)(http://www.asanet.org/footnotes/septoct01/fn1.html)参照。

注76　COSSAは1981年の設立以来、100以上の学術団体、大学、研究機関などアメリカの社会科学系研究者を代表して政府に働きかける組織である。COSSA(http://www.cossa.org/)参照。

注77　ASAnet(http://www.asanet.org/footnotes/mar01/fn2.html)

注78　SBS(http://www.aera.net/humansubjects/index.htm)

注79　 議事録OHRP(http://ohrp.osophs.dhhs.gov/nhrpac/mtg04-01/0410mtg.txt)/ COSSA(http://www.cossa.org/jan15.html)/ ASAnet(http://www.asanet.org/footnotes/septoct01/fn1.html) 参照
　また2002年1月に行われたNHRPAの会議では新たにconfidentiality（守秘性）が論点とされている。 従来の被験者保護政策では十分議論されてこなかった論点について特に「公的用途情報」「守秘性」について紹介する。

公的用途情報'(Public Use Data)
　従来から研究利用される情報の公開が妥当であるかどうかの判断はIRB審査に委ねられてきた。特にU.S. Census data, General Social Survey Panel Study of Income Dynamicsなどの情報を研究目的で使用する際には事前の申請とIRB審査が要求されてきた。またたとえ一度IRBの認証を受けた研究であっても、他の研究で二次的資料として分析されるばあいにも再度審査が必要であった。
従来からASAはじめ学術組織はNBAC、IOM、NHRPACなどにこうした問題を指摘し続けてきた。NHRPACは2001年上旬からこの問題をとりあげて、翌年の1月に公的用途情報'(Public Use Data)についての報告書がまとめられた 。報告書ではまず「情報資料」(data files)を「その情報から個人的な人物特定はされなくとも容易に身元を特定できる形式であり、第三者が分析目的で研究者または情報の提供者からもたらされるもの」と定義した。そしてIRBまたは政府の統計情報収集機関がこの「情報」を「身元を特定するに至らない」(de-identified)と認めることで公的用途情報(Public Use Data)として研究利用が可能であるという判断が下された。また公的用途情報の二次利用については審査の必要はないとされた。

守秘性(Confidentiality) 　
守秘性をリスクと同等の重要度としてIRBは認識すること、法令や規定による守秘の認定があったとしてもOHRPはなお秘密が守られているかを確かめること、OHRPは守秘性の限度と守秘性を守るための対策について研究者はIRBに指導すること、研究機関は情報の漏洩を防ぐ研究者を支援する役に徹すること、IRBや研究者は身元を特定できる情報が研究者間に出回るとしたら、上とされているのはその情報だけではなく本来あるべき守秘義務が侵されていることなどを提言にまとめた。　

注80　 SBSはインフォームド・コンセント・海外での研究・講義での研究・公共機関での観察とフィールドワーク・民族誌的で質の高い研究など新しい論点も提起している。

注81　 同時期にSAGGT（the Secretary's Advisory Committee on Genetic Testing）もHHS諮問機関から外されている。ワシントンポスト紙によると、一連の政府の方針転換は、たとえば被験者として胎児の権利を代弁する政策を目指す保守派による圧力ではないかと推測している。COSSA (http://www.cossa.org/21.17.htm)参照。

注82　OHRP(http://ohrp.osophs.dhhs.gov/sachrp/sachrp.htm)/ SACHRP(http://ohrp.osophs.dhhs.gov/sachrp/sachrp.htm)
2003年１月にはSACHRPとSACGHS(Secretary 's Advisory Committee on Genetics, Health and Society)の委員を任命した。NHRPACのうち3名がSACHRPの委員として新たに任命された。またSACGHSは12名の委員からなり、主に遺伝工学と新しい医療の発展と応用について技術、倫理、法、社会への影響について検討しHHSに諮問する組織として予定されている。

注83　形式上は2000年の6月に設立されている。また設立団体母体となった7学術団体は以下の通り。
AAMC(Association of American Medical Colleges)/ AAU(Association of American Universities)/ COSSA(Consortium of Social Science Associations)/ FASEB(Federation of American Societies for Experimental Biology)/ NASULGC(National Association of State Universities and Land Grant Colleges)/ NHC(National Health Council)/ PRIM&R(Public Responsibility in Medicine and Research)

注84　COSSAは1981年の設立以来、100以上の学術団体、大学、研究機関などアメリカの社会科学系研究者を代表する組織でこれまでも政府に働きかけてきた実績がある。COSSA(http://www.cossa.org/)

注85　AAHRPP(http://www.aahrpp.org/standards.htm)参照

注86　 PRIM&R(http://primr.org/aahrpp.html)より引用。
The overall goal of accreditation is to improve protection of human research subjects by developing performance standards that encourage programs to adopt "best practices" in this area, and by recognizing the programs that meet those standards.

注87　たとえばAAHRPPの認証基準について、自己評価と細部にわたる監視のなかで実際に基準を運用して発展すること、監視者の教育と補充、被験者保護計画の情報と統計的情報の収集、教育に向けた教材の出所を確認することと一覧表の作成という重視すべき４つの過程が示されている。(http://www.aahrpp.org/steps.htm)参照。

注88　AAHRPP認証の普及については(http://www.aahrpp.org/news.htm)参照。 政府機関がAAHRPPの有効性を認めはじめていることは確かである。ただし外部の認証にIRB審査を委任することによって、政府機関の作業負担を軽減するという思惑も指摘されている。

注89　この法案はGAO,HHS IG,NBACの推薦を取り付けている。 Washington fox(http://www.washingtonfax.com/samples/2000/20000614a.html)を参照。 またH.R.4697では擬薬をつかう実験の禁止にも言及している。

注90　COSSA(http://www.cossa.org/21.8.html)

注91　ペンシルヴェニア歴史・博物館委員会(Pennsylvania Historical and Museum Commission)。彼女は「（口述）歴史研究に不案内な人々が構成する傾向にあるIRBは問題を深刻化させる」と言う。例えば医学研究の被験者と社会科学研究の語り手(narrator)とではそれに含まれる情報や同意を得る状況について回るリスクがまったく異なること、あらゆる質問にはIRBの事前審査が必要であること、また研究をした後には録音テープなど調査記録の破棄と機密の保持を徹底することは口述歴史学研究の誤解を招きかねないし、歴史研究の根幹を揺るがすことだと述べている。OAH(http://www.oah.org/pubs/nl/2000may/bioethics.html)





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