「従業員の人権目録


D.Ewingは1970年代後半,アメリカの多くの市民が9時から5時まで本質的に無権利状態に置かれ,職場がアメリカ人の権利のブラックホールになってきたことを指摘した.彼は議論の「たたき台」として「人権目録」を提案した.

  1. いかなる組織もマネジャーも,経営行動の倫理,違法性あるいは社会的責任を口頭ないし文章で批判した従業員を,解雇したり降格したりあるいはいかなる方法でも差別してはならない.
  2. いかなる従業員も,勤務時間後に政治的であれ経済的であれ市民的であれ文化的であれ彼(彼女)が自分で選んだ部外活動に従事していることによって,個人的な目的のために自分で選んだ製品やサービスを購入したことによって,あるいは政治的・経済的・社会的問題に関してトップマネジメントの所信に反する見解を表明したりそれに賛同したりすることによって,罰せられてはならない.
  3. いかなる組織も,事前に通告あるいは同意なしに,従業員の会話あるいは行動を録音したりビデオ撮影してはならない.いかなる組織も,従業員あるいは応募者に,性格テストや嘘発見器あるいはプライバシーを侵害する(と本人が思うような)他のテストを要求してはならない.
  4. いかなる人物も,従業員のデスク,ファイルおよびロッカーを,当人が不在のとき,調べてはならない.ただし,そのファイルが当人の不在のときになされなければならない意思決定のために必要な情報を含んでいると判断する十全な理由を持つ上級マネジャーは例外である.
  5. いかなる使用者組織も効果的なマネジメントに必要でない従業員についての情報を収集してはならない.
  6. いかなるマネジャーも,解雇予定のあるいは解雇された従業員について,彼(彼女)が新しい地位を獲得することの妨げになるような不必要な情報を,将来の使用者に,伝えてはならない.
  7. 解雇・降格・左遷された従業員には,マネジメントから,そのペナルティの理由で文書で知らされる権利がある.
  8. 本目録で述べれられた権利を強く主張したためにペナルティを課せられてと思う従業員は,公平な公式の法廷委員会の開催の前に,公平なヒアリングを受ける権利を有する

D.Ewing."An Employee Bill of Rights needed?",in W.hoffman & J.Moore(eds.),Business Ethics.Readings and Cases in Corporate Morality,2nd ed.,McGraw-Hill,1990

宮坂純一,『現代企業のモラル行動』,千倉書房,1996