目次
日本語版に寄せて
凡例
プロローグ 「これは恐慌だ!」
第T部 初期の信用恐慌
第1章 悪魔の誘い −ペーパーマネーの誕生
[ペーパーマネー以前]
第2章 宴のあと −天才ギャンブラーの末路
[マネーサプライ減少の理由]
第3章 経済学の創始者たち −「見えない手」は二本あった
[彼らが長く記憶される主な理由][「大地金論争」の採点簿]
第4章 資本主義経済の内在的不安定性 −ジョン・スティアート・ミルと一八七三年の恐慌
[マネーサプライ増加の方法]
第5章 景気循環の「発見」 −二人の先覚者
[クレマン・ジュクラーの主要業績]
第U部 景気循環理論の展開
第6章 景気の考古学者たち −実証分析事始め
[景気循環入門]
第7章 資産形成の導師(グルー) −フィシャー、バブソンおよび貨幣数量説
[民間銀行はいかにしてマネーを創造するか]
第8章 破局への予感 −ケインズとフォン・ミーゼス
[オーストリア学派]
第9章 オンリー・イェスタディ −世界大恐慌と『一般理論」
[『一般理論におけるもっとも重要な分析上の新機軸]
第10章 技術革新と景気循環 −シュンペーターの総合
[金融と景気循環の諸論点に関し引用されることのもっとも多いマクロ経済学者(番付表)、一九二〇〜三九年]
第V部 秘められた世界
第11章 秘密のヴェールを剥ぐ −模擬実験装置(シュミレーター)の登場
[景気循環とその解決]
第12章 電子の頭脳 −ビール・ゲームと景気循環
第13章 蝶の羽ばたき −決定論的カオスの発見
[カオス理論の実験的意味合い][経済分析のためのコンピューター利用]
第14章 暗黒列島探検とブラック・ボックス −安定化政策の限界
[経済安定化政策][フィリップス曲線理論に対する批判][財政と金融の不安定化政策の長所と短所][信用創造と景気循環]
第15章 マスター・スペキュレーターの直観 −資金運用の錬金術
[人工知能 −ニューラル・ネットワーク][景気循環の予測と金融市場の予測]
第16章 戦争ゲーム −鉄火場と人間心理
[異なる市場での摩擦]
第17章 資産市場のトレンドと転換点 −システム・ダイナミクス・モデルによる憲章
[何が景気の局面転換の引き金を引くか?]
第18章 フリードマン・トリレンマ −負け戦が運命づけられた通貨防衛
[合理的期待と政府の政策]
第19章 千年紀末の恐怖 −金融バブルの果てに
[一九九〇年代におけるアジア・太平洋経済の諸問題][暴落の自己強化効果]
エピローグ 生命(いのち)の鼓動
資料1:景気循環学説史の重大事件(年表)
資料2:金融恐慌史年表
用語解説(カオス理論関連)
注記
訳者あとがき
参考文献
索引
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プロローグ 「これは恐慌だ!」
第T部 初期の信用恐慌
第1章 悪魔の誘い −ペーパーマネーの誕生
[ペーパーマネー以前]
「まもなく彼(ジョン・ロー)は、「土地銀行」の設立を呼びかけるパンフレットを発行する。この銀行は国有地の評価額を限度に証券を発行する。証券購入者は利息を受け取り、また特定の期日に証券を土地に転換する選択権をもつ。この案には二つの利点がある。▽硬貨の場合とは違い、経済の成長に伴い増加するマネー需要を満たすため、貴金属の輸入量を増やす負担がない。▽経済変動に即応して流通マネー量を管理することが容易になる」(P13)
「ローは次の手を用意しており、三つの実行に着手した。▽(…)ロー銀行の窓口で銀行券を提示して請求すれば、いつでも満額が硬貨と交換できた。▽銀行券の兌換には原硬貨が使われた。改鋳され硬貨の品位が下げられた場合にも(従来はしばしば行われたことだが)、原硬貨に含有される金属量に相当する高価を支払うこととされた。▽ジョン・ローは、十分な担保の裏付けなしに紙幣を発行する銀行家は誰でも「死罪に値する」と公式に宣言した」(P19)
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第2章 宴のあと −天才ギャンブラーの末路
[マネーサプライ減少の理由]
現代の経済学者なら、このような状況に対しては、おそらく次のような政策を提案するだろう。金本位制を放棄する、銀行貸し出しを奨励する、金利を引き下げる、公的出資を増やす、減税をする、インド会社に命じてお札を増刷させ、それで国債を購入させる」(P36)
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第3章 経済学の創始者たち −「見えない手」は二本あった
[彼らが長く記憶される主な理由][「大地金論争」の採点簿]
「まだ若いころだったが、ニュートンは政府だけでなく市民たちも硬貨の悪鋳を行っていることに気付いた。硬貨を袋に入れてとことん揺さぶり、たまった粉塵を集める連中もいれば、もっと手荒く、他人に渡す前に硬貨の縁を削り取る徒輩もいる。防止さくとして、ニュートンは硬貨の縁にギザギザをつけることを提案した。そうすれば、削り取られたことがたやすくみつけられる」(P39-40)
「アダム・スミスの大望は、人工の教義から導出するのではなく、人間自然の本能と感覚から導き出される倫理学の理論を完成させることだった。すべての人間は他人に受け入れてもらい、彼らの「共感」(sympathy)を得たいという基本的な欲求を有している。(…)共感を得ようとして、人は自己利益から、他人から尊敬され、賞賛されるように振る舞うよう努めるだろう」(P42)
「平均的にいって、所得を受け取った者は、支出する前に一部を貯蓄するからだ(つまり、貯蓄分だけ社会の総算出量は収縮する)。こう説明することで、社会への流動性の新たな注入の効果は、注入金額の何倍もの所得を生み出すことを示した。こうして重農主義者たちは、資本の本質は一連の前払いであること、および所得流通の過程で、所得は乗数倍に増加するものであることを理解したのである」(P45)
「万人がケネーを当時評判が高かった「重農主義」運動の非公式の指導者とみなした。この運動のスローガンは、有名な「欲するままになさしめよ、欲するままに行かしめよ(Laissey faire, laissez passer)であった」(…)「つまり、重農主義(physiocracy)という語の意味が「自然(physio)の支配(cracy)」だった。重農主義者たちはまた、何が自分にとって最良であるかをよりよく判断できるのは当の個人であって、国家ではないと考えた。そして私有財産を最大限尊重すべきであるとの教えを説いた」(P45)
「『諸国民の富』は、価格メカニズムの分析では、価格は「自然価格」または「均衡価格」を中心に上下すると記述する」(…)「スミスの業績の最重要部分は(…)自由こそ経済効率の基本だという根本原理を演繹した点にある。(…)すべての個人に自己利益の判断を任せ、自己利益の命ずるところにしたがって行動させる時に、資本主義経済はもっともよく機能するだろう」(P49)
「経済活動水準の上昇があれば、社会はより多くの通貨を吸収できる。つまり、完全雇用に達するまでは、経済成長が続く限り、事後的にはどんなマネーサプライの増加も正当化できるというのである。これはとても重要な点だ。「中央銀行が、もう遅すぎる時点になるまで、ゆきすぎたマネーサプライ拡大の危険に気付かないことを意味する」からである」(…)「このような内在的不安定性という概念は、当然のことながら、アダム・スミスの「見えない手」の観念とはまったく違っている。経済には自動的に均衡経路から外れる能力(ポジティヴ・フィードバック)とそれに戻る能力(ネガティヴ・フィードバック)の療法がそなっている。つまり、見えない手は一本ではなく二本あったということだ!」(P58)
「購買力の永続的不足は、低水準の生産に起因する場合を除き、社会にとってけっして長期的な問題にはなり得ない。一時的に、消費が生産以下に落ち込んでも、そのときは利子率が下がり、企業の設備投資意欲を刺激する。こうして経済は再び成長起動へもどるだろう。(…)たんに「過剰投資」を根拠とする恐慌の説明をすべて無効にするからだ。しかし、彼[セイ]の理論では、何回となく発声した実際の恐慌を説明すると言う問題は、未回答のままに残されてしまう」(P59)
「彼の結論は、通貨の価値の減価の原因は紙幣の過剰発行であって、ソーントンが主張するように、凶作と戦争経費の支出増に起因する過剰な輸入ではないということだった。だから、イギリスは一七九七年に放棄した金本位制をただちに復帰すべきである。これがリカードの勧告だった」(P61)
「リカードは、次の理由から自己安定的なシステムだと考えた。▽イングランド銀行が紙幣を過剰に発行したりすると、裏づけのための金の輸入が必要になる…。▽…この過程事態がマネーサプライを減らし、イングランド銀行の新紙幣発行の能力を滅殺することになる」(P62)
「関係者のほとんどが、金本位制にまつわる大問題を無視していた。第一に、経済発展とともに金を大量に輸入する必要があること。第二に、この制度は人々を誘って、不況期に紙幣を金kへ交換する気にさせがちなことだ。(…)このような理由から、金本位制はインフレーションを防ぐことはできるが、大不況を阻止することにはならないのである」(P64)
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第4章 資本主義経済の内在的不安定性 −ジョン・スティアート・ミルと一八七三年の恐慌
[マネーサプライ増加の方法]
「「すべての競争相手より自分は先んじていると皮算用して、生産者は市場が吸収しうるとみずからが考える最大限を供給する。他人も彼と同様に、供給に付け加えつつある点を試みず、市場に供給量が増えるや否や発生する価格の低下をも計算に入れない。この欠陥が間もなく過剰へと変化する」」(…)「ミルは「職業的取引者」(professional traders)と「投機家」(speculators)の区別を導入した。前者は長期の経済分析にもとづいて行動するが、後者の行動は価格の短期的な趨勢(トレンド)に依存する」(P68)
「国際的にも古典となった同書[『経済学原理]]の中で、ミルは全般的公共と投機をカンティヨン以来の古い概念であるマネーの流通速度に関連付けた。マネーサプライが増加しなくても、流通速度さえ上昇すれば、好況は可能になる(…)ブームの原動力は、ここでもやはり公衆の信認である」(P69)
「好況が長期に続きすぎ、人々が多数の企業に投資しすぎた結果、これらの企業は投資に対する利払いができなくなった」(P75)
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第5章 景気循環の「発見」 −二人の先覚者
[クレマン・ジュクラーの主要業績]
「頻発する恐慌は、それぞれほかとは独立に生起した数々の偶発事件などではなく、経済組織に内在する不安定性の周期的表明の繰り返しであることを、ジュグラーは誰よりも早く理解した。そして次に、循環運動をいくつか異なる局面に分類する作業に映った。かれは局面を「上昇」(upgrade)、「爆発」(explosion)、「精算」(liquidation)の三つに分類した。(…)長期の時系列を研究した結果、九年ないし十年の平均持続期間をもつ循環を検出できると確信した」「彼の考えでは、「不況は何かが間違ったから起こるわけではない。不況は何かがよくなりすぎた結果起こった」のだ。(…)間違い説は間違いで、好況の結果、不況がやってくるのだ!」(P84)
「クレマン・ジュグラーの主用業績 彼ははっきりと定義された経済問題を分析するに当たって、利子率、物価、中央銀行収支などの時系列を系統的かつ徹底的に利用した最初の人だった。このような分析方法は景気循環研究や経済学一般の標準となった。彼の景気循環の形態学(局面分類)は、後世において頻繁に利用された。不況が先行する好況によって作り出された状況への適応現象であることを明確に理解した最初の人間である」(P86)
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第U部 景気循環理論の展開
第6章 景気の考古学者たち −実証分析事始め
[景気循環入門]
「「信用外の負債を支払う必要に迫られた投機家が株を売却したことが、株価の上昇を抑制する。株価上昇がストップすると、他のすべての投機家は不安になり、一斉に売りに走る」。マーシャルが物価という要素をこれほどまで強調したひとつの理由は、物価変動が景気循環にはっきり関連付けることのできた唯一の変数だったからだろう」(P92)
「NBER[全米経済研究所]の研究者たちは、まもなく多くの経済指標や金融指標は、景気循環に先行するもの、一致するもの、および遅行するものの三つのグループ分けできることに気付いた。たとえば、先行指数は一般的経済活動が上昇するしばらく前に増加し、頭打ちになるほど何ほどか前に減少する傾向がある。(…)この手法の特徴の一つとして驚くことは、遅行指数が経済予測に有効なことが判明したことだ」(P94)
「国民所得の推計法を開発した後、クズネッツは経済変動の研究に転じた。彼の循環は平均して二〇年ほどの持続期間を有していた」(P98-9)
「コンドラティエフは、振動を資本設備への過剰投資によって説明した。過剰投資が供給過剰を導き、新しい技術の発明は急上昇の唯一の原動力ではなく、むしろ引き金を引くにすぎない」(…)「離陸に導く点火の諸条件は、次の通りだと彼は言う。▽高い貯蓄性向▽流動貸付資本が低金利で比較的豊富に供給されること▽強力な企業家集団および金融グループにおけるこれら基金の蓄積▽低位の物価水準」(P100)
「景気循環に寄与する人間行動は、個別当事者自身の観点からは合理的である。(…)短期のキチン循環はとくに在庫変動と相関している。中期のクズネッツ循環は信用供与および資本投資と高い相関関係をもつ。しかし超長期のコンドラディエフ循環(長期波動)の存在は現在でも統計的に照明できていない」(…)「一循環の持続期間は、合理的に予測可能ないかなる形でも、次期循環の持続期間とは相関しない」(P102-3)
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第7章 資産形成の導師(グルー) −フィシャー、バブソンおよび貨幣数量説
[民間銀行はいかにしてマネーを創造するか]
「その[『資産形成のための景気指標』の]主たる論点は、「過剰な投資とマネーサプライの過剰供給はつねに反対方向への反作用を引き起こす」というものだった」(P105)
「フィシャーの貨幣的景気循環理論が述べているのは、次のことである。「マネーサプライの増加は初めはインフレーション調整後の利子率(実質金利)の低下を導き、生産量の増加をもたらす。しかし、やがてはインフレ率の上昇とその結果、実質金利が上昇する。つまり、マネーサプライの大きな増加は初めは好ましい効果をもつが、後になると深いな結果を招く」」(P107)」
「十九世紀までは、大部分の経済学者は銀行をマネーのたんなる仲介者と見ていた。銀行は預金を受け取り、他の者へ貸し出す。(…)しかし、いまや経済学者たちはこう理解するようになった。(…)それは「銀行は貨幣を仲介するだけではなく、貨幣を創造する」ということである」(P107-8)
「物価の安定は各種の方法で達成可能だ。例えば、これはデイヴィット・リカードの考えだが、紙幣を金属紙幣へ兌換可能とすることでも可能だし、ヘンリー・ソーントンの主張するように、中央銀行の金融総さを通じてマネー数量を安定させることによっても可能である。もう一つ、(…)物価が1%上がったときには紙幣額も1%増加させるし、物価が1%下がったときには1%減価させるという、いわゆる物価スライドによる貨幣価値の安定策だった」(P110)
「発行数量の如何にかかわらず時刻の貨幣価値を信頼するという不条理な傾向のことを、フィシャーは「貨幣錯覚」(the Money illusion)と呼んだ」(P112)
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第8章 破局への予感 −ケインズとフォン・ミーゼス
[オーストリア学派]
「景気循環が繰り返し発生するのは、ミーゼスの説明によれば、銀行に流動性がたっぷりある景気回復期に事業を拡張しようとして、政治家や中央銀行家たちが「自然利子率」以下に金利を下げてしまう傾向があるためである。つまり、これが何度も過剰投資の発生を許し、やがて信用収縮から恐慌へと導く」(P118)
「毎回この1ポンドが支出されるたびに、需要された製品なりサービスなりの売り手に対して雇用が提供される。この1ポンドが流通しつづける限り、雇用は無制限に誘発されよう。(…)しかし、どういう理由で不可能なのか?(…)回答の一部はもう200年前にケネーによって与えられている(その金が貯蓄されてしまう)が、その時代の経済学者たちの標準的な回答は「大蔵省見解」だった。(…)政府の追加支出は雇用創出のやくにたたないというわけである」(P120)
「ケインズは資本主義経済は内在的に不安定であると信じていた。(…)ケインズはまた、経済はともすれば恒久的な不完全雇用均衡の状態へ落ち込む傾向があると考えていた
(P121-2)
「経済の「オーストリア学派」は、総需要を微調整するこころみも含めて、ほとんどの政府介入に反対する傾向がある。(…)ハイエクの見解では、問題の根源は政府部門がマネー需要の増加に対して、貸し出し金利つまり信用の価格を引き上げるのではなく、信用(貸し出し)の増加によって応えようとすることにある」(…)「マネーサプライの増加は、誰もその過程に気付くことなしに生産を刺激しうる。物価になんら攪乱状態も生じないからである。利子率が低すぎ、投資に見合うには貯蓄が少なすぎる、しかも物価にはなんら警告的な気配もない。だから信用インフレーションは忍び寄り突然破滅へ突き落とす」(P128-9)
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第9章 オンリー・イェスタディ −世界大恐慌と『一般理論」
[『一般理論におけるもっとも重要な分析上の新機軸]
「1929年の株式市場の大暴落は単なる始まりであった。(…)不況の初期段階では、多くの家計は資産を保持するよう努めた。しかし、状況が悪化するにつれて、うれるものは何でも手当たり次第、どんな値段でもかまわず売却しなければならなくなった。(…)ひとびとが信じられないような価格で財産を売り払った事実ではなく、食料品のような非耐久財の購入が半分に落ち込んだ事実に見出される。多くの人々が貸し渋りがますますひどくなっていると言って銀行を非難した。(…)マネーサプライが落ち込んでいるのに、連邦準備精度が銀行破産を阻止するのに何も手を打たなかったため、銀行倒産は日に日に増え、人々は凍え、植えつつあった。(…)1932年ロシアでは大飢饉が発生し、何百万とも知れない多数のひとびとが飢えて死んだ。(…)ロシアの外にいる人々は大部分がこの事実を知らなかった。だから西側の人たちの中にも資本主義の大不況がマルクスが予言した体制の終末にほかならないと希望する者たちが少なからず存在した」(P139-40)
「「経済は情感 −でなければ血気(animal spirits)を持った人間が動かしている。経済が落ち込みだすと、人々はおびえきってしまい、これからもこの傾向がずっと続くだろうと考える。彼らは底値でも買おうとしない。どこが底値だと知る手掛かりがないからだ。長期の期待なんてものはほとんど錯覚で人々にもっと多く影響するのは短期の現実のほうだ」」(P146)
「有意義な方策というのは、次の三つによって経済の落ち込みに対抗する方法である。▽減税▽移転支出の増加▽公共投資および維持更新経費の増加または執行促進」(…)「ケインズの書は、とてつもなく大きい影響力を持った。彼は短期の需要管理を強調したが、この見解は自由放任の概念とは鋭く対比させるものである。同様に重要なのは、操作的でかつ実証可能な仕方で各種の集計値を分析する全体的な方法論である。彼の理論は諸定理の多くが検証可能であり、パラメーターも定量化できる」(P147-8)
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第10章 技術革新と景気循環 −シュンペーターの総合
[金融と景気循環の諸論点に関し引用されることのもっとも多いマクロ経済学者(番付表)、一九二〇〜三九年]
「ヨゼフ・シュンペーターの初めての職は、エジプトで精糖工場を合理化する仕事だった。彼は大変成功し、また彼の実施した技術革新が収益性工場に役立つのを実際に観察することができた」(P151)
「不況の間は、生産諸要素を入手するのは容易になる。(…)このような状況は企業者(entrepreneurs)にとって理想的で、彼らはこれらの生産要素を新しい、もっと利益の上がる仕方で結び合わせるだけでよい。あたそれが新市場を開くことになる。だから不況の時期にこそ多くの技術革新(新結合)が出現し、やがて当該企業が繁栄するだけでなく経済全体が好況になる。この理由のひとつは、技術革新が典型的に起こるのは新規に設立された企業においてだという点にある」(…)「技術革新が景気循環を作り出す第二の理由は、一人の企業者が新しい経路を切り開くと、ますます多くの者たちが追従するという点にある」(…)「第三に、新しい産業の発展は資本、原材料、サービスそれに副産物に対する需要の増加を意味し、他産業への誘発需要の一般的波及を意味する」(P154-5)
「ケインズは資本主義の内在的安定性を過小評価している。シュンペーターはそう感じた。また高すぎる貯蓄率に景気後退の非難を加えるのも誤りで、企業者たちに対し技術革新を許し、新たな成長を作り出すのはこれらの貯蓄があればこそだ、シュンペーターはそう考えた」(P158)
「シュンペーターは景気回復の中心的な役割を消費者支出ではなく、企業者に帰属させた。このことから明らかなように、不況期に賃金を上げることは賢明でないと考えた」(P163)
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第V部 秘められた世界
第11章 秘密のヴェールを剥ぐ